チラー(冷温水機と冷凍機)の仕組み

チラー(チリングユニット)とは、冷温水を作る装置である。
チラーには、冷水と温水を作る「冷温水機」と冷水のみを作る「冷凍機」がある。

チラーは、液体が気体になる時に周囲から熱を奪う気化熱を利用し冷却を行っている。
気化熱の反対に、気体が液体になる時に周囲に放出する熱のことを凝縮熱という。
例えば、注射時にアルコール消毒で腕が冷えるような気がするのは、アルコールが周囲の熱を奪って気化したからである。

気化熱を連続して起こすサイクルがチラーの冷却サイクルである。
周囲温度が常温であっても、低気圧であればガスを押さえつける力が小さくなり気化しやすく、反対に高気圧であればガスを押さえつける力が大きくなり凝縮しやすいことを利用したサイクルである。
チラーは冷却サイクルの仕組みによって主に 圧縮式(ヒートポンプ式)吸収式(ナチュラル式)の2つがある。

参考予定>>チラー(冷水)回路と冷却塔(冷却水)回路、密閉回路と開放回路、冷却回路の冬季運転(デフロストやブライン)

圧縮式冷温水機(ヒートポンプ)

圧縮式冷温水機の冷房サイクル
圧縮式冷温水機の暖房サイクル


圧縮式は以下を繰り返すサイクルである。

  • 蒸発器 … 冷媒液の気化熱を利用し冷却する
  • 圧縮機 … 冷媒ガスを高圧(液化しやすい)にする
  • 凝縮器 … 冷媒ガスの凝縮熱を冷却水に回収してもらう
  • 膨張弁 … 冷媒液を低圧(気化しやすい)にする

暖房サイクルの場合は、このサイクルを反対廻りにしている。

圧縮式冷温水機の冷凍サイクルは構造が吸収式より単純で、水冷式だけでなく空冷式にも利用できるので空調機など様々な場面で応用されている。

圧縮機の動力には、電気やガスを利用する。
電気式が一般的なのでヒートポンプというと、電気ヒートポンプ(EHP)を指すことが多く、ガス式を利用する場合はガスヒートポンプ(GHP)と区別して呼ばれる。

参考記事

圧縮式冷温水機の使用冷媒

冷媒に使用されているのは、気化と液化が繰り返しやすく、化学変化が起きにくい物質が利用される。
圧縮式冷温水機の使用冷媒の詳細は、別記事にまとめた。

参考記事

吸収式冷温水機(ナチュラル)

吸収式冷温水機の冷房サイクル
吸収式冷温水機の暖房サイクル


吸収式は以下を繰り返すサイクルである。

  • 蒸発器 … 冷媒液の気化熱を利用し冷却する(蒸発器内は真空に近く低温でも気化する)
  • 吸収器 … 冷媒ガスを(冷却水を通すなどして)冷却し吸収液にて吸着する
  • 再生器 … 冷媒液を吸着した吸収液を加熱し冷媒ガスと吸収液に分離する
  • 凝縮器 … 冷媒ガスの凝縮熱をに回収してもらう

暖房サイクルの場合は、凝縮器を通さずサイクルし再生器での加熱エネルギーを利用して温水を温めている。

吸収式の再生器は直焚きのガスや蒸気、コージェネレーションシステムによる排熱などで加熱し、電気はポンプなどの補機動力に使うだけなので、圧縮式より電力消費が少ない。

補足
 

吸収式冷凍機は蒸気を動力と出来るため、蒸気を利用しているプラント系の工場などで20~30年前は多く用いられていたらしい。
現状は圧縮式冷凍機に押されて導入率は下がっている印象がある。吸収式冷凍機のシェアが下がっている要因として、圧縮式に比べて応答性が悪い(直ぐに使用できない)こと、吸収液に利用される臭化リチウムが腐食し効率が直ぐ落ちること、などが良く聞かれる。

吸収式冷温水機の使用冷媒

冷媒に使用されているのは、気化と液化が繰り返しやすく、化学変化が起きにくい物質が利用される。
吸収液に使用されているのは、冷媒との親和性が高く結合しやすく、冷媒より沸点が高く簡単に冷媒と分離できる物質である。
実用化されているのは「冷媒-吸収液」が臭化リチウムアンモニアのものである。吸収式冷温水機は圧縮式と異なりフロン系の冷媒を使用しないので環境にやさしいのでナチュラルチラーなどとも呼ばれる。
空調の分野では水-臭化リチウムが一般的なので、アンモニア-水の場合はアンモニア吸収式と区別して呼ばれることが多い。

水-臭化リチウム式

水を冷媒、臭化リチウムを吸収液とした吸収式冷凍機。水の凝固点が0℃と高いため低温での冷却には向かないが、一般的に0℃以上ではアンモニア-水式より効率が良いため、主に空調用途に利用されている。以下に他の冷凍機と比較した特徴を記載する。

  • 圧縮式に多く用いられる冷媒であるフロン類と比較し、水の密度が小さく、能力に対してチラーが大きくなり高コストとなる。
  • 水の凝固点(凍ってしまう温度)が0℃であるため、0℃以下の冷凍はできない。
  • 臭化リチウムが冷えると結晶化し固着するため、冷凍機の運転が停止した場合などで固着する危険性がある。
  • 空冷化が難しい。
  • 臭化リチウムの腐食を防止するため防食材(モリブテン酸)が添加されているため、回収する場合は専門業者に依頼する必要がある。

アンモニア-水式

アンモニアを冷媒、水を吸収液とした吸収式冷凍機。アンモニアは広範囲の温度帯に対応できること、フロン類と比較してもエネルギー効率が高いことから度々注目される冷媒である。しかしながら毒性と可燃性があり保安管理が難しいため規制も厳しい冷媒でもある。主に冷凍用途に利用されている。以下に他の冷凍機と比較した特徴を記載する。

  • アンモニアのエネルギー効率が高い。
  • 水-臭化リチウム式と異なり広範囲の温度帯に対応でき、冷凍温度も-60℃程度と低い。
  • 空冷化も容易である。
  • アンモニアに毒性と可燃性があり、保安管理が難しい。

吸着式冷凍機

吸着式冷凍機は、吸収式冷凍機と似たサイクルを持つ冷凍機の一種である。
吸収液の代わりにゼオライトやシリカゲルなどの固形吸着材を使う。

固体の吸着材は吸収液と異なり、ポンプで移動できず吸収と再生(吸着と脱着)が連続にできないため、
冷却水を通すなどで冷却して吸収器として作用した後に、加熱水を通すなどで加熱して再生させるため、吸収器兼再生器を2台以上持ち、交互に運転させている。

余談
 

私は新入社員の頃、設備のことを何も知らない状態で受けた会社の研修で、一番初めに学んだのが圧縮式冷凍機と吸収式冷凍機の仕組みの違いであった。しかし当時の私は、空調機と冷凍機の違いすらわからないまま研修を終えてしまった。

空調機についてなんとなく理解した気で入った初現場には冷温水が無く、冷媒管と冷温水管が頭の中でごちゃごちゃになり、しばらく違いがわからないままで過ごしてしまった。

吸収式冷凍機は大型現場でもないと目にする機器ではないので、新入社員研修では身近にある圧縮式冷凍機と冷媒配管についてしっかり理解を深めさせてから、空冷式と水冷式の違いについて学ばせ、その後に吸収式冷凍機について知るほうが混乱が少ないのではと現在は考えている。