クッションタンクや膨張タンクの水量算定
冷温水回路における水槽の設置目的は、保有水量の確保や熱伸縮による伸縮しろの確保や、開放式の水槽であれば補給水の導入箇所の確保などがある。それぞれの目的ごとに必要な水槽容量の計算し、そのどちらをも満たす水槽を算定する必要がある。これらの水槽は設置目的によって、保有水量確保の場合はクッションタンク、熱伸縮による伸縮しろ確保の場合は膨張タンク、補給水の導入箇所である場合は補給水槽などとも呼ばれる。
水槽の必要水量の算定
クッションタンクとは
チラーやボイラーなどの熱源機には、最低保有水量が定められている。最低保有水量とは、熱源機の運転を安定させるために無負荷の状態で数分程度運転するために必要な水量のことを指す。ここでいう保有水量とは、配管回路上の熱源機器や冷温水配管の保有水量の合計をいう。
熱源機器や冷温水配管の保有水量が、最低保有水量を満たさない場合に保有水量確保のために設置する水槽をクッションタンクという。
クッションタンクの必要容量の計算
クッションタンクは前述の通り、熱源機の最低保有水量と熱源機器や冷温水配管の保有水量を求める必要がある。熱源機の最低保有水量は機器の仕様書などで確認し、熱源機器や冷温水配管の保有水量は、各部分の水量を合計して求める。
クッションタンクを設置することで
(熱源機の最低保有水量)<(システム水量)+(クッションタンク水量)
となるように容量を決定する。以下に例題を示す。
図のような熱源機器と負荷を結ぶ冷水配管がある。この配管経路に設置するクッションタンクの必要水量を算定する。熱源機器の最低保有水量は400L、熱源機内の保有水量は20L、配管は配管用炭素鋼鋼管50Aの長さ40mとする。
熱源機器の最低保有水量は、問題文より400L
熱源機内の保有水量は、問題文より20L
配管の保有水量は、表より配管用炭素鋼鋼管の50Aの内容積が約2.2[L/m]で配管長さ40mであるので、2.2×40=88[L]
よって、(熱源機の最低保有水量)<(システム水量)+(クッションタンク水量)とするために必要なクッションタンクの水量は、
(クッションタンク水量)>(熱源機の最低保有水量)-(システム水量)=400-(20+88)=292[L]になる。
なお、配管の保有水量は、無負荷運転時に冷温水が供給される部分のみを集計するため、図の場合は三方弁によって負荷側まで冷温水を供給せずともチラー回路を一周させることが出来るので着色部分のみを配管の保有水量とする。
配管の保有水量
配管用 炭素鋼鋼管 |
一般配管用 ステンレス鋼管 |
配管用 銅管(Mタイプ) |
|||
---|---|---|---|---|---|
管径 [A] |
内容積 [L/m] |
管径 [Su] |
内容積 [L/m] |
管径 [A] |
内容積 [L/m] |
6 | 0.0332 | ||||
8 | 0.0665 | 8 | 0.0518 | ||
10 | 0.1267 | 10 | 0.0968 | 10 | 0.0808 |
15 | 0.2036 | 13 | 0.1602 | 15 | 0.1336 |
20 | 0.3664 | 20 | 0.3211 | 20 | 0.2829 |
25 | 0.5983 | 25 | 0.5549 | 25 | 0.4917 |
32 | 1.0010 | 30 | 0.7843 | 32 | 0.7373 |
40 | 1.3592 | 40 | 1.2756 | 40 | 1.0361 |
50 | 2.1979 | 50 | 1.6764 | 50 | 1.8171 |
65 | 3.6210 | 60 | 2.5967 | 65 | 2.8350 |
80 | 5.1149 | 80 | 4.0783 | ||
100 | 8.7085 | 100 | 7.1091 | ||
125 | 13.4371 | 125 | 11.1407 | ||
150 | 18.9179 | 150 | 16.1011 | ||
200 | 32.9098 | ||||
250 | 50.7506 | ||||
300 | 72.9181 | ||||
350 | 90.6854 |
JIS G3452-19,JIS G3448-20,JIS H3300-18
熱源機の最低保有水量は、各機器メーカーが提示している値を利用する。
なお、チラーの必要な最低保有水量は三菱電機株式会社によると、以下を計算してどちらか大きいほうを最低保有水量としている。
冷房時の最低保有水量[L]=QCmax×(最小容量制御[%]-最低負荷[%])/100×(最小運転[分]/60分)/ΔT2
QCmax:最大冷却能力[kcal]
ΔT1 :最小容量制御運転時の冷水出入口温度差[℃]
ΔT2 :5分間運転するために有効な温度差[℃]、制御温度幅-ΔT1
暖房時の最低保有水量[L]=Qd3/(除霜開始時の温水温度[℃]―除霜完了時の温水温度[℃])
Qh :加熱能力[kcal]
Qd1 :除霜に必要な概略熱量[kcal]、Qh×除湿に要する割合[%]
Qd2 :除霜運転中に負荷により取り去られる熱量[kcal]、Qh×(除湿運転時間[分]/60分)
Qd3 :除霜運転中の損失熱量[kcal]、Qd1+Qd2
膨張タンクとは
水は温度が上昇すると容積が増加する熱膨張が発生する。冷温水配管は温度調整されていない給水を導入し、熱源機を運転することで冷水または温水としているため、水の温度が上昇する場合は熱膨張が起きて配管を圧迫する。なお熱膨張は、熱源機の初期運転時や熱源機の再運転時などに顕著に起きる。
その冷温水の膨張量を逃がすために設置する水槽を膨張タンクという。
密閉式の膨張タンクの場合は、空気と接触しないために合成樹脂製のダイアフラムやブラダを利用し冷温水の入る層と圧のかかったガスの入る層に区分した特殊な構造をしている。
参考予定>>伸縮継手
膨張タンクの必要容量の計算
冷温水の温度変化による水の容積の膨張量は、全システム水量×温度差から求まる膨張係数×余裕率(1.1程度)より求められる。以下に例題を示す。
図のような熱源機器と負荷を結ぶ温水配管がある。この配管経路に設置する膨張タンクの必要水量を算定する。給水温度は5℃、温水の往き温度は60℃で還り温度55℃、熱源機内の保有水量は20L、負荷内の保有水量は1L×3台、配管は配管用炭素鋼鋼管50Aの長さ80mと25Aの長さ12mとする。
熱源機内の保有水量は、問題文より20L。負荷機器内の保有水量は、問題文より1×3=3L。
配管の保有水量は、表より配管用炭素鋼鋼管の50Aの内容積が約2.2[L/m]で配管長さ80m、25Aの内容積が約0.6[L/m]で配管長さ12mであるので、2.2×80+0.6×12=183.2[L]
システム最高温度は、問題文より60℃
システム最低温度は、問題文より5℃
システム温度差=60-5=55℃となる。
膨張係数は、表より0.0151となる。
よって余裕係数1.1とすると、必要な膨張タンクの水量は、
全システム水量×温度差から求まる膨張係数×余裕率=(20+3+183.2)×0.0151×1.1≒3.5[L]になる。
冷温水の膨張係数は、配管内の液体の膨張係数から配管材の膨張係数を差し引いて求められる数値である。一般的な数値は以下の表に示す。
冷温水の膨張係数(ε)
=(配管内の液体の膨張係数)-(配管材の膨張係数)
={(システム最低温度時の液体密度)/(システム最高温度時の液体密度)-1}-{(配管材の線膨張係数)×3×(システム温度差)}
水の膨張係数(ε)
最終温度[℃] | 初期温度[℃] | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
5 | 10 | 15 | 20 | 25 | 30 | 35 | |
10 | 0.0001 | ||||||
15 | 0.0005 | 0.0004 | |||||
20 | 0.0012 | 0.0011 | 0.0007 | ||||
25 | 0.0022 | 0.0021 | 0.0017 | 0.0010 | |||
30 | 0.0034 | 0.0033 | 0.0029 | 0.0022 | 0.0012 | ||
35 | 0.0049 | 0.0048 | 0.0044 | 0.0037 | 0.0027 | 0.0014 | |
40 | 0.0065 | 0.0065 | 0.0060 | 0.0053 | 0.0043 | 0.0031 | 0.0016 |
45 | 0.0084 | 0.0083 | 0.0079 | 0.0072 | 0.0062 | 0.0050 | 0.0035 |
50 | 0.0104 | 0.0104 | 0.0099 | 0.0092 | 0.0082 | 0.0070 | 0.0055 |
55 | 0.0127 | 0.0126 | 0.0122 | 0.0114 | 0.0104 | 0.0092 | 0.0077 |
60 | 0.0151 | 0.0150 | 0.0146 | 0.0138 | 0.0128 | 0.0116 | 0.0101 |
65 | 0.0176 | 0.0175 | 0.0171 | 0.0164 | 0.0154 | 0.0014 | 0.0127 |
70 | 0.0204 | 0.0203 | 0.0198 | 0.0191 | 0.0181 | 0.0168 | 0.0154 |
75 | 0.0232 | 0.0231 | 0.0227 | 0.0220 | 0.0210 | 0.0197 | 0.0182 |
80 | 0.0263 | 0.0262 | 0.0258 | 0.0250 | 0.0240 | 0.0227 | 0.0213 |
85 | 0.0295 | 0.0294 | 0.0289 | 0.0282 | 0.0272 | 0.0259 | 0.0244 |
90 | 0.0328 | 0.0327 | 0.0323 | 0.0315 | 0.0305 | 0.0293 | 0.0278 |
95 | 0.0363 | 0.0362 | 0.0358 | 0.0350 | 0.0340 | 0.0327 | 0.0312 |
注:水の膨張係数から鉄管の膨張係数を差し引いた値を示します。
不凍液の膨張係数(ε)
最終温度[℃] | 初期温度[℃] | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
-5 | 0 | 5 | 10 | 15 | 20 | 25 | |
0 | 0.0033 | ||||||
5 | 0.0065 | 0.0033 | |||||
10 | 0.0098 | 0.0065 | 0.0033 | ||||
15 | 0.0130 | 0.0098 | 0.0065 | 0.0033 | |||
20 | 0.0163 | 0.0130 | 0.0098 | 0.0065 | 0.0033 | ||
25 | 0.0195 | 0.0163 | 0.0130 | 0.0098 | 0.0065 | 0.0033 | |
30 | 0.0228 | 0.0195 | 0.0163 | 0.0130 | 0.0098 | 0.0065 | 0.0033 |
35 | 0.0260 | 0.0228 | 0.0195 | 0.0163 | 0.0130 | 0.0098 | 0.0065 |
40 | 0.0293 | 0.0260 | 0.0228 | 0.0195 | 0.0163 | 0.0130 | 0.0098 |
45 | 0.0325 | 0.0293 | 0.0260 | 0.0228 | 0.0195 | 0.0163 | 0.0130 |
50 | 0.0358 | 0.0325 | 0.0293 | 0.0260 | 0.0228 | 0.0195 | 0.0163 |
55 | 0.0390 | 0.0358 | 0.0325 | 0.0293 | 0.0260 | 0.0228 | 0.0195 |
60 | 0.0423 | 0.0390 | 0.0358 | 0.0325 | 0.0293 | 0.0260 | 0.0228 |
65 | 0.0455 | 0.0423 | 0.0390 | 0.0358 | 0.0325 | 0.0293 | 0.0260 |
70 | 0.0488 | 0.0455 | 0.0423 | 0.0390 | 0.0358 | 0.0325 | 0.0293 |
75 | 0.0520 | 0.0488 | 0.0455 | 0.0423 | 0.0390 | 0.0358 | 0.0325 |
80 | 0.0553 | 0.0520 | 0.0488 | 0.0455 | 0.0423 | 0.0390 | 0.0358 |
85 | 0.0585 | 0.0553 | 0.0520 | 0.0488 | 0.0455 | 0.0423 | 0.0390 |
90 | 0.0618 | 0.0585 | 0.0553 | 0.0520 | 0.0488 | 0.0455 | 0.0423 |
95 | 0.0650 | 0.0618 | 0.0585 | 0.0553 | 0.0520 | 0.0488 | 0.0455 |
注:理化学年表エチレングリコール100%WT
20℃をベースに60℃換算した数値を基準に作成しています。
水槽サイズ(容量)の検討
水槽のサイズ(容量)は、開放式と密閉式で容量の求め方が異なる。開放式タンクは有効水量と水槽に接続する配管の接続高さなど、密閉式タンクは有効水量と水槽にかかる圧力などを考慮し水槽容量を決定する。
開放式タンク選定
開放式タンクは、水槽容積を調整することで膨張タンクとクッションタンクを兼用とすることが出来る。さらに水槽内に吐水口空間を取ることが可能なため、補給水槽も兼用できる。水槽容積に対する有効水量の割合は、小さいものでは6割程度、大きいものでは8割程度となる。既製品によるほか、パネルタンクなどによる製作品もある。
参考予定>>受水槽の大きさの選定
密閉式タンク選定
密閉式タンクは、膨張タンクとクッションタンクの構造が異なるため兼用とすることは難しい。さらに水槽内に吐水口空間を取ることが難しいため補給水を自動供給とする場合は、加圧シスターンなどを別途設置する必要がある。
密閉式の水槽類は圧力容器であるため、同システム内に安全弁や逃し弁などの安全装置を設置する必要がある。
密閉式クッションタンク
密閉式クッションタンクは、ストレージタンクなどの耐圧式の水槽を使用する。水槽にかかる圧力を求めて、それに耐えうる水槽を選定する。水槽内は100%給水されているため、水槽容積[L]=有効水量[L]になる。
密閉式膨張タンク
密閉式膨張タンクの水槽容積は以下の式により求まる。例題は別記事にまとめる。
参考予定>>密閉式膨張タンク例題
膨張タンクの容積[L]=(膨張水量[L])/{1-(Pf:タンクにかかる最低使用圧力[MPa])/(Po:タンクにかかる最高使用圧力[MPa])}
Pf=a+b+c
a:タンクにかかる補給水圧力、タンクにかかる最高水圧[MPa]
b:ポンプ揚程[MPa]
c:大気圧力(≒0.10)[MPa]
Po=Pf+(Pm:逃し弁に対する許容圧力変動幅[MPa・G])
Pm=A−(B+C+D)
A:逃し弁セット圧力[MPa]
B:逃し弁余裕率(A×0.1)[MPa]
C:補給水圧力[MPa]
D:逃し弁にかかる循環ポンプ揚程[MPa]