循環ポンプの圧力と水槽

冷温水配管はポンプによって圧力をかける圧力配管である。配管にかかる圧力は、配管方式や水槽位置、補給水の導入方法などによって異なるのでそれらについて記載する。今回は、開放回路と密閉回路の圧力のかかり方の違いをまとめて、最終的に密閉配管の膨張タンク容量を選定できるようにする。

参考予定>>配管の圧力損失計算

ポンプの必要圧力

冷温水配管は、給水や給湯の配管と異なり水栓などの給水吐出先が無く、機械や空調機などの熱交換に使われた冷水は循環して熱源に戻るため、循環配管という。循環配管の配管経路に設けるポンプの揚程は、冷温水の吐出先がないため、配管の圧力損失分で十分である。ただし、配管経路に水槽を設置した場合などは配管の縁が切れているため状況が異なり、ポンプ揚程を配管の圧力損失分のみとすることはできないため注意する。

循環ポンプのポンプ揚程

冷温水配管の途中で配管の縁が切れていない場合は、ポンプの揚程は配管の圧力損失分をかければよい。この場合に利用されるポンプを循環ポンプという。

循環ポンプの揚程は、力学的エネルギー保存則を考慮して検討する必要があるので、考えやすいように水の代わりに球体を用いて、チューブで作った円の頂部に球体が置いてある状態をイメージする。

循環ポンプの揚程を考える

この球体は、力(圧力)をかけずともチューブで作った円の中をグルリと廻る。このとき球体では、円の最頂部にあった時の位置エネルギーが速度エネルギーに変換されていき、最底部で速度エネルギー最大になる。さらに再び円の最頂部に向かうにつれて速度エネルギーが位置エネルギーに変換されて、最頂部で速度エネルギーが0になる…といった力学的エネルギーの保存則による変化が起きている。もしもチューブ壁に摩擦が全く無ければ、球体は完全に円の頂部に戻り延々と円周をクルクル回り続けることになるが、実際は摩擦があり円の頂部には僅かに足りないところまでしか届かない。このチューブ壁の摩擦が、冷温水配管でいう配管の圧力損失にあたり、循環ポンプによってこの圧力損失分を加圧することで循環し続けることが出来るようにしている。

循環ポンプを設置した場合

揚水ポンプの場合

冷温水配管の途中で水槽などがあり配管の縁が切れている場合は、ポンプの揚程は配管の圧力損失分だけでなく実揚程分の圧力(静水頭)をかける必要がある。配管経路にエア抜き弁を設ける場合は、さらにその吐出圧分も加圧する。この場合に利用されるポンプを揚水ポンプという。

揚水ポンプの揚程は、考えやすいように先ほどのチューブで作った円の中程度の高さの部分に水槽を置いた配管経路をイメージする。

揚水ポンプの揚程を考える

水に加圧が無い状態で水槽が置かれた場合は、重力の関係で水位を水槽より高くすることが出来ない。よって、円の最頂部まで水を届けるためにはポンプを利用し水を加圧する必要がある。この時必要になるのは、配管の圧力損失分の加圧と高い部分に持ち上げるための位置エネルギー分の加圧である。
なお、ポンプで加圧され水槽に投入される水は速度エネルギーを持っているが、吐出管より十分に広い水槽内で速度エネルギーが分散されてしまうので、その速度エネルギーによる加圧は水槽から排出される際には考慮されない。

揚水ポンプを設置した場合
補足
落水防止弁について
 

ポンプが停止した際に、水槽へ還り配管内の冷温水が落ちるのを防止するために設ける弁を落水防止弁という。ポンプが停止し冷温水が自由落下することで配管内の圧力が低下するのを防止する目的もあるため、圧力保持弁などとも呼ばれる。弁自体の調整機能(レギュレーター)による自力式弁と、自動制御によりポンプ発停とインターロックをとる他力式弁とがある。

補給水圧力

冷温水配管は循環回路であるが、循環水の一部は蒸発などで失われてしまうため給水を補給水として導入する必要がある。その補給水の圧力は循環配管のシステム最高位置に到達するために必要な圧力器具の必要吐出圧を加えた圧力が必要になる。

参考記事

器具の必要吐出圧とは、冷温水配管の場合はエア抜き弁の吐出圧のことをいい、その必要圧力は30kPa程度である。なお、給湯管の場合は器具必要圧力によるため、以下に各種衛生器具の必要最小圧力を記載する。

各種衛生器具の必要最小圧力

器具 必要最小圧力[kPa]
瞬間湯沸器 4~5号 40
7~16号 50
22~30号 80
水栓類 一般水栓 30
混合水栓 60
ボールタップ 30
流し類 30
シャワー 70
便器関連 洗浄弁 70
洗浄タンク 50
温水洗浄便座 60

建築設備設計基準 平成30年度版より一部抜粋

さらに給湯管の場合は冷温水配管と異なり、給水管と同様に飲料水系統なのでクロスコネクションを考慮しなくてよいため、逆止弁を設けて給水管と直接接続することが出来る。その場合の補給水圧力は給水管にかかる圧力により決まるので、必要以上に加圧されることを防ぐため減圧弁を設けること必要がある。なお、給水管にかかる圧力は以下で求められる。

給水方式 かかる圧力
水道直結式 水道圧と同じ
高置水槽方式 静水頭と同じ
加圧給水ポンプ方式 ポンプ停止圧力
 
補足
開放式の補給水圧力について
 

上の補給水についての記載は密閉式の場合であり、開放式の場合は吐水口空間を保ちながら給水が補給されるため、補給水自体を加圧することが出来ない。よって、エア抜き弁の必要吐出圧を他の方法でかける必要がある。循環ポンプ方式の場合は膨張タンクをシステムの最頂部から3m(≒30kpa)程度高い場所に設置することで加圧し、揚水ポンプ方式の場合はエア抜き弁の分もポンプ加圧が必要になる。(揚水ポンプ方式となるのは開放式のみである。)

安全弁や逃し弁

安全弁や逃し弁の必要箇所

密閉回路の場合は開放式と異なり、ポンプによってかけられた圧力が放出される水槽などを持たないため、ポンプを回し続けると圧力がドンドン大きくなってしまう。それにより機器や配管などが破損することを防止するために、安全弁や逃し弁などの圧力放出弁を設ける。

安全弁とは、一次側(流体入口)の流体圧力が設定圧力になった時、瞬時に弁が開き流体を逃がすバルブである。蒸気などの気体に主に使用される。
逃し弁とは、一次側(流体入口)の流体圧力が設定圧力になった時、徐々に弁が開き流体を逃がすバルブである。液体に主に使用される。

安全弁や逃し弁のセット圧力

安全弁や逃し弁の設定圧力(セット圧力)は、使用機器の保護のために機器の最高使用圧力以下に設定する。
なお、密閉式膨張タンクの効率が20~40%になるように安全弁や逃し弁のセット圧力を考慮する。タンク効率がこれより低いと、膨張水量に対してタンク容量が大きくなるため、必要より大きくなると設置コストが高くなり経済的でなくなる。タンク効率がこれより高いと、膨張水量に対してタンク容量が小さくなるため、ダイアフラムやプラダに強い圧力がかかり早期劣化の原因となる。タンク効率については次項に記載。

密閉式膨張タンクの容量

密閉式膨張タンクの容量は、以下の式によって求められる。
密閉式膨張タンク容量[L]=膨張水量[L]/タンク効率

膨張水量[L]=システム全保有水量[L]×膨張係数
タンク効率=1-タンクにかかる最低使用圧力[MPa・abs]/タンクにかかる最高使用圧力[MPa・abs]

参考記事
参考サイト

タンクにかかる最低使用圧力

タンクにかかる最低使用圧力は、熱源の運転前にタンク内に水が入らないようにするための圧力である。通常は、システムの補給水圧と同圧とし、タンクに循環ポンプの圧力がかかる場合はそれも加算する。

タンクにかかる最高使用圧力

タンクにかかる最高使用圧力は、膨張水量が最大となった時にタンクにかかる圧力である。通常は、安全弁や逃し弁のセット圧と同圧(または、余裕を持たせるためセット圧力×0.9を許容値とする)とし、安全弁や逃し弁に循環ポンプがかかる場合はそれも加算する。

なお、使用圧力の単位が絶対圧力[MPa・abs]表示であるため、ゲージ圧力[MPa・G]表示であった場合は大気圧分を加算+0.1[MPa]する必要がある。(通常、指定が無い場合はゲージ圧力表示であることが多い。)

レリーフ弁

圧力調整弁には、安全弁や逃し弁や落水防止弁のほかにレリーフ弁(サーキット弁)がある。レリーフ弁は、負荷量の変動による必要圧力の変動を、冷温水の一部をレリーフする(戻す)ことで調整する弁である。レリーフ弁を設けることで、ポンプの流量や吐出圧力を一定とすることが出来る。

開放回路の場合、ポンプのバイパス弁としてレリーフ弁である一次圧力調整弁を設けて、一部の冷温水を水槽へレリーフする。
密閉回路の場合、ポンプのバイパス弁としてレリーフ弁である差圧調整弁を設けて、一部の冷温水を還り配管側にレリーフする。