全熱交換器の種類と選定

全熱交換器とは、導入外気の熱負荷を減らすために、排気する空調空気と導入外気を、エレメントを通して直接触れ合わせることなく熱交換する機器である。

温度と湿度のどちらもを熱交換する全熱交換器と温度のみを熱交換する顕熱交換器がある。

全熱交換器は潜熱(湿度による熱負荷)も熱交換するので、顕熱交換器より空調空気に近い状態で外気を導入出来るが、エレメントが臭気などのガスも吸着してしまうため便所や厨房などの局所排気では利用できない。

全熱交換器などを通さず直接外気を導入すると、外気と室内空気との温湿度差による快適性への影響を与えることや、外気が空調室にとって大きな熱負荷になることが問題になる。そのため一般的に空調室においては直接の外気導入は行わず、外気導入型の空調機で外気負荷を処理するか、全熱交換器を利用する。

全熱交換器のエレメント

全熱交換器には、ローターエレメントが回転することで熱交換する回転式と、エレメントに空気を交差させることで熱交換する静止式がある。

また、熱交換器が凍結しないように寒冷地では通常のエレメントではなく、寒冷地向けエレメントの全熱交換器を使用する。

回転式のエレメント

アルミなどの表面に吸湿性のある特殊皮膜を形成したローターエレメントを回転させて熱交換する。
回転することで吸着と再生を繰り返すので潜熱交換効率が高い。

回転式エレメントの全熱交換器

静止式のエレメント

特殊加工紙により形成した流路に外気と排気を交差させて熱交換する。
回転式と異なりローター駆動装置が不要のため小型で簡易な構造になる。

静止式エレメントの全熱交換器

全熱交換器の形状

全熱交換器は空調機に組み込む以外にも、単独で設置することも出来る。
単独で設置する場合以下のような形状の全熱交換器がある。

壁掛形の全熱交換器

壁掛形の全熱交換器

壁掛形の全熱交換器は、外壁に設置する形状である。
1つの開口穴で外気(OA)の取入と排出(EA)、内気の給気(SA)と排気(RA)が出来る、小型で処理風量も少ない。

天井埋込カセット形の全熱交換器

天井埋込カセット形の全熱交換器

天井埋込カセット形の全熱交換器は、天井面に設置する形状である。
個々の外壁貫通穴から外気(OA)の取入と排出(EA)を行い、天井面のカセットから内気の給気(SA)と排気(RA)をする。天井開口が1箇所なので意匠性も高く、壁掛形より処理風量も大きい。

天井埋込ダクト形の全熱交換器

天井埋込ダクト形の全熱交換器

天井埋込ダクト形の全熱交換器は、天井内に設置する形状である。
個々の外壁貫通穴から外気(OA)の取入と排出(EA)を行い、内気の給気(SA)と排気(RA)も個々に行う
ダクトを伸ばし給排気口を取り付けるので、全熱交換器の設置位置に自由度が高く、大型で処理風量も大きい。

空調機の室内機の形状については、別記事でまとめている。

参考記事

全熱交換器を通した外気の熱負荷計算

外気負荷は以下の式より求まる。
全熱負荷[W]=0.33×外気量[m3/h]×内外比エンタルピー差[kJ/kg(DA)]
顕熱負荷[W]=0.33×外気量×内外温度差[℃]
潜熱負荷[W]=833×外気量×内外絶対湿度差[kg/kg(DA)]

参考記事

全熱交換器を通した外気の熱負荷は以下の式より求まる。
全熱交換器を通した外気の熱負荷[W]=外気負荷[W]×(1-熱交換効率)

全熱交換器の仕様書には通常、顕熱交換効率である温度交換効率と、全熱交換効率であるエンタルピ交換効率が掲載されている。

補足

全熱負荷=顕熱負荷+潜熱負荷
温度による熱負荷を顕熱負荷、湿度による熱負荷を潜熱負荷という。
ただし実務上は読み取りの桁数の違いにより多少の差が出てしまうため、全熱負荷≒顕熱負荷+潜熱負荷となってしまう。

例題
 
問題

外気条件(32℃、60%、0.0180kg/kg(DA)、78.3kJ/kg(DA))、
室内条件(26℃、50%、0.0105kg/kg(DA)、52.9kJ/kg(DA))の時に、
換気風量1000m3/hを導入する場合の外気の熱負荷を、
全熱交換器(全熱交換効率70%、顕熱交換効率80%)を導入することで削減する。

解答

全熱交換器を導入しない場合の外気負荷は、

全熱負荷=0.33×外気量×内外比エンタルピー差=0.33×1000×(78.3-52.9)=8382[W]
顕熱負荷=0.33×外気量×内外温度差=0.33×1000×(32-26)=1980[W]
潜熱負荷=833×外気量×内外絶対湿度差=833×1000×(0.0180-0.0105)=6247[W]
となる。

全熱交換器を導入した場合の熱負荷は、

全熱負荷=外気負荷[W]×(1-全熱交換効率)=8382×(1-0.7)=2514[W]
顕熱負荷=外気負荷[W]×(1-顕熱交換効率)=1980×(1-0.8)=396[W]
潜熱負荷=全熱負荷-顕熱負荷=2514-396=2118[W]
※潜熱効率は、1-(2118/6247)≒0.66=66[%]となる。