冷媒ガスの種類
冷媒ガスとは、熱源機器であるチラーで気化熱を連続して起こすために熱を移動させる熱媒体のことをいう。
冷媒ガスに利用される物質は、気化と液化が繰り返しやすく、化学変化が起きにくいものである必要がある。
冷媒ガス利用の歴史
冷媒ガスとしては100年以上も昔から、自然冷媒※でありエネルギー効率の高いR717:アンモニア(NH3)が多く利用されてきた。しかし、毒性と可燃性を持つことから保守管理が難しく、人工化合物のフロン(CFC)が1930年に発明されてからはアンモニアはあまり使用されなくなった。
フロンは、エネルギー効率が高く毒性や可燃性が少なく、発明された当時は奇跡の発明などともてはやされた。しかし、フロンが普及ししばらくの年月を経て、フロンにオゾン層を破壊する効果があることがわかったため、1996年には生産と輸入を禁止した。フロンはオゾン層を破壊し、さらに地球温暖化も大きく促進した冷媒ガスであった。
その後フロンから、フロンに似た冷媒(HCFC)に移行したが、HCFCもフロンほどではないがオゾン層を破壊し、地球温暖化も促進するため、2020年には生産と輸入を禁止した。
現在では、前述のフロン類と異なり、オゾン層を破壊しない(オゾン層破壊係数=0)である代替フロン(HFC、HFO)へと移行しているが、しかし代替フロンもフロンと同様に、地球温暖化を促進する(地球温暖化係数≠0)の冷媒ガスである。そのため、今もより地球温暖化係数の小さい冷媒ガスの開発が続けられている。
フロン類はオゾン層への影響の大きさにより分類されており、オゾン層への影響の高いCFCは特定フロン、オゾン層への影響の小さいHCFCは指定フロンと呼ばれている。
なお、フロンの発明により過去の産物となっていた自然冷媒※はオゾン層を破壊しない物質であり、フロンと比較し地球温暖化係数も僅かであるので、現在ではその価値が見直されて、自然冷媒を用いたチラーの開発も行われている。
※自然冷媒とは、人工化合物であるフロン類と異なり、自然界に存在するガスのうち冷媒ガスとして使用できる物質のこと。代表的なものとしてアンモニアや水、二酸化炭素などがあげられる。
冷媒用化合物
冷媒名称 | 冷媒種類 | 代表冷媒 | 冷媒概要 |
---|---|---|---|
特定フロン | CFC(Chloro Fluoro Carbon) クロロフルオロカーボン |
R12、R11、R502など | オゾン破壊係数が高い化合物。地球温暖化係数も高い。オゾン層保護のためにモントリオール議定書(1989年)より、1996年には生産と輸入を禁止。 |
指定フロン | HCFC(Hydro Chloro Fluoro Carbon) ハイドロクロロフルオロカーボン |
R22、R123など | オゾン破壊係数が小さい化合物。地球温暖化係数は高い。オゾン層破壊保護法(1998年)より、2020年には生産と輸入を禁止。 |
代替フロン | HFC(Hydro Fluoro Carbon) ハイドロフルオロカーボン |
R410A、R407C、R134a、R32など | オゾン破壊係数が0の化合物。 地球温暖化係数は高い。地球温暖化係数の高い代替フロンから規制が入ることが予想される。 |
HFO(Hydro Fluoro Olefin) ハイドロフルオロオレフィン |
R1234yf、R1234ze、R1233zdなど | オゾン破壊係数が0の化合物。 地球温暖化係数は低い。今後は、HFC系からHFO系に移行していくことが予想される。 | |
ノンフロン | 自然冷媒 | R717(アンモニア)、R290(炭化水素)、R718(水)、R744(二酸化炭素)、R729(空気)など | オゾン層破壊係数が0の化合物。地球温暖化係数は0~1程度。冷媒として使用するには、課題も多く、一部空調機の利用にとどまっており全般には普及していない。ノンフロンは通常の使用ではエネルギー効率が低い化合物が多く、比較的エネルギー効率の高いアンモニアには可燃性と毒性が、炭化水素には可燃性がある。 |
冷媒使用箇所
フロン類を含む冷媒ガスは無数に存在し、様々な機器に利用されている。ただし、実際の空調機や冷凍機で実用化して利用されている冷媒ガスはさほど多くない。以下に、冷媒使用箇所ごとの実際に利用されている主な冷媒ガスを表示した。
「指定製品の目標値及び目標年度の設定等について」より抜粋
冷媒使用箇所 | 冷媒ガス種類 |
---|---|
家庭用エアコンディショナー(壁貫通型等を除く) | R410A、R32 |
店舗・オフィス用エアコンディショナー(床置型等除く) | R410A |
自動車用エアコンディショナー(乗用自動車(定員11人以上のものを除く)に搭載されるものに限る) | R134a |
コンデンシングユニット及び定置式冷凍冷蔵ユニット(圧縮機の定格出力が1.5kW以下のもの等を除く) | R404A、R410A、R407C、CO2(二酸化炭素) |
中央方式冷凍冷蔵機器(有効容積が5万m3以上の新設冷凍冷蔵倉庫向けに出荷されるものに限る) | R404A、NH3(アンモニア) |
硬質ポリウレタンフォームを用いた断熱材(現場発泡用のうち住宅建材用に限る) | R245fa、R365mfc |
専ら噴射剤のみを充塡した噴霧器(不燃性を要する用途のものを除く) | R134a、R152a、CO2(二酸化炭素)、DME(ジメチルエーテル) |
環境省「改正フロン法における指定製品の対象と指定製品製造業者等の判断の基準について中間とりまとめ」
空調機に利用されている主な冷媒ガス
空調機や冷凍機に利用されている主な冷媒ガスについて、以下にまとめた。
冷媒番号 | 化合物種類 | 化学記号 | オゾン破壊係数 ODP |
地球温暖化係数 GWP |
蒸発潜熱[kJ/kg] | 安全性等級 | 使用開始順 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
25℃ | 沸点 | クラス | 毒性 | 燃焼性 | ||||||
R22 | HCFC | CHCLF2 | 0.055 | 1810 | 182.7 | 234 | A1 | 低 | 不燃性 | (旧) |
R134a | HFC | CF3CH2F | 0 | 1430 | 177.8 | 217 | A1 | 低 | 不燃性 | | |
R404A | HFC | 混合気体 | 0 | 3920 | 140.0 | 201 | A1 | 低 | 不燃性 | | |
R407C | HFC | 混合気体 | 0 | 1770 | 183.0 | 249 | A1 | 低 | 不燃性 | | |
R410A | HFC | 混合気体 | 0 | 2090 | 186.3 | 273 | A1 | 低 | 不燃性 | ↓ |
R32 | HFC | CH2F2 | 0 | 675 | 270.9 | 382 | A2L | 低 | 微燃性 | (新) |
R1234yf | HFO | C3H2F4 | 0 | 4 | 145.2 | A2L | 低 | 微燃性 | (次世代) | |
R290 | プロパン | C3H8 | 0 | ~20 | 335.2 | 426 | A3 | 低 | 可燃性 | 自然冷媒 |
R600a | イソブタン | C4H10 | 0 | 4 | 329.1 | A3 | 低 | 可燃性 | 自然冷媒 | |
R744 | 二酸化炭素 | CO2 | 0 | 1 | 119.6 | 574 | A1 | 低 | 不燃性 | 自然冷媒 |
R718 | 水 | H2O | 0 | 0 | 2442 | 2257 | A1 | 低 | 不燃性 | 自然冷媒 |
R717 | アンモニア | NH3 | 0 | 1以下 | 570.2 | 1372 | B2L | 高毒性 | 微燃性 | 自然冷媒 |
R22
HCFCの冷媒ガスの一種。化学式は、CHCLF2(クロロジフルオロメタン)である。
安全性等級A1(低毒性/不燃性)で、エネルギー効率も高い。
以前は空調機に多く利用されていたが、オゾン層を破壊する指定フロン(HCFC)であるため2004年から総量規制がされ、2020年には生産と輸入が禁止された過去の冷媒である。現在も改修現場などではまだ見かけられる。
R134a
HFCの冷媒ガスの一種。化学式は、CF3CH2F(テトラフルオロエタン)である。
安全性等級A1(低毒性/不燃性)である。CFCのR12の代替品として開発され、後述のR404AやR407Cの構成化合物にもなっている。
現在は主に、大型の空調機や冷凍機に利用されている。
R404A
HFCの冷媒ガスの混合気体。構成化合物は、R125(C2HF3)、R143a(CF3CH3)、R134a(CF3CH2F)の3種類。混合比率は、R125:R143a:R134a=44:52:4である。
安全性等級A1(低毒性/不燃性)で、HCFCのR22の代替品として開発された。構成化合物にR143aがあるため低温冷却に強い。
現在は主に、低温が求められる冷凍機に利用されている。
R407C
HFCの冷媒ガスの混合気体。構成化合物は、R32(CH2F2)、R125(C2HF3)、R134a(CF3CH2F)の3種類。混合比率は、R32:R125:R134a=20:40:40である。
安全性等級A1(低毒性/不燃性)で、HCFCのR22の代替品として開発された。
一時はR22の代替品として多くの空調機に利用されていたが、現在はよりエネルギー効率の良いR410Aが開発され、あまり見かけなくなった。
R410A
HFCの冷媒ガスの混合気体。構成化合物は、R32(CH2F2)、R125(C2HF3)の3種類。混合比率は、R32:R125=50:50である。
安全性等級A1(低毒性/不燃性)で、HCFCのR22の代替品として開発された。構成化合物にR32があるためエネルギー効率が高い。
現在は、空調機に最も広く普及している。
R32
HFCの冷媒ガスの一種。化学式は、CH2F2(ジフルオロメタン)である。
安全性等級A2L(低毒性/微燃性)で、微燃によるリスクがあるため、以前から存在していながら使用され始めたのは最近の冷媒ガスである(新冷媒と表現されている)。エネルギー効率が高く、地球温暖化係数GWPもHFCの中ではかなり低い。
現在は、ダイキン株式会社を筆頭に、家庭用などの小型空調機から普及しつつある。
R1234yf
HFCの冷媒ガスの一種。化学式は、C3H2F4(テトラフルオロプロペン)である。
安全性等級A2L(低毒性/微燃性)で、微燃によるリスクがある。HFO系の代替フロンであり、地球温暖化係数GWPが4とかなり小さく大気開放が可能とされている。(通常、フロン類は地球温暖化係数GWPが高いため、専門のフロン回収業者によってフロン類を回収する必要がある)。なお、エネルギー効率が同程度のR134aと比較し遥かに高価である。
現在はまだカーエアコンでの導入程度であるが、次世代の空調機用冷媒としての利用に注目が集まっている。
R290(プロパン)
プロパンは自然冷媒の一種。化学式は、C3H8である。
安全性等級A3(低毒性/可燃性)で、可燃性ガスであるため取扱に十分注意する必要がある。
地球温暖化係数GWPが小さく、ガス状であれば大気開放することができるが、火気のない通風良好な場所で燃焼させて可燃性の無い状態にしてからパージ(除去)するのが一般的である。
空調機への利用はないが、日本では株式会社ノーリツがプロパンガスによるヒートポンプ給湯機を開発している。
R600a(イソブタン)
イソブタンは自然冷媒の一種。化学式は、C4H10である。
安全性等級A3(低毒性/可燃性)で、可燃性ガスであるため取扱に十分注意する必要がある。
地球温暖化係数GWPが小さく、ガス状であれば大気開放することができるが、火気のない通風良好な場所で燃焼させて可燃性の無い状態にしてからパージ(除去)するのが一般的である。
空調機への利用はないが、日本では自動販売機や家庭用冷蔵庫などの冷媒ガスが少量のものにイソブタンガスが利用されている。
R744(二酸化炭素)
二酸化炭素は自然冷媒の一種。化学式は、CO2である。
安全性等級A1(低毒性/不燃性)である。
地球温暖化係数GWPは二酸化炭素を基準に設定されており(二酸化炭素のGWPを1としている)、大気開放が可能である。
次世代冷媒として期待されているが、現状では低い温度帯ではエネルギー効率が低いため空調機への利用は少ない。
R718(水)
水は自然冷媒の一種。化学式は、H2Oである。
安全性等級A1(低毒性/不燃性)である。
地球温暖化係数GWPが0であり、地球や人に優しい完全冷媒と考えられている。
次世代冷媒として期待されているが、現状では密度が小さくエネルギー効率が低いため空調機への利用は少ない。
R717(アンモニア)
アンモニアは自然冷媒の一種。化学式は、NH3である。
安全性等級B2L(高毒性/微燃性)で、有毒と可燃性があるため保守管理が難しく、回収する際は処理が必要になる。
次世代冷媒として期待されているが、現状では有毒性があるため新規導入が躊躇される部分は大きい。
なお、水とアンモニアは吸収式冷凍機の冷媒として使用されている。
チラーの仕組みと共に特徴等を別記事まとめている。
※この記事は2020年時点の法規等に基づいて作成しています。