換気の関連法規
換気は、室内の空気が滞留することで発生する在室者への健康被害を防止するために必須である。室内では、在室者が有害物質である二酸化炭素発生している他、建材に使用されるホルムアルデヒドや、塗装や清掃に利用される有機溶剤や薬液などの様々な有害物質が発散されている。
換気は建築物の計画において重要な要素であることから、建築基準法などの法律で細かく規定されており、法規に基づいた適切な換気設備を設けることが必要になる。以下では主な換気関連法規を記載した。
なお、この記事は法規に基づいた換気の必要有無を判断する記事であり、実際の換気計算については別記事にまとめいる。
換気方式の検討
換気方式には、窓などの開口から自然に空気が流れるように計画する自然換気と、ファンや空調機などの機械の力によって強制的に換気する機械換気とがある。自然換気は換気量が成行になってしまうため、換気量フローを検討したい場合には機械換気が必要になる。 建築基準法の第28条第2項により、居室の換気のための開口部の面積を床面積の1/20以上にすることとしており、それ以下の場合は機械換気設備を設ける必要がある。
居室には換気のための窓その他の開口部を設け、その換気に有効な部分の面積は、その居室の床面積に対して、1/20以上としなければならない。ただし、政令で定める技術的基準に従つて換気設備を設けた場合においては、この限りでない。
建築基準法 第28条第2項
これに関連して
”建築基準法施行令 第20条の2”には、自然換気を選択した場合に必要な有効断面積の算定方法、機械換気とした場合の必要な換気風量の算定方法、機械換気として中央管理方式の空気調和設備を選択した場合の技術基準が記載されている。
”建築基準法施行令 第129条2の6”には、自然換気設備の構造、機械換気設備の構造、機械換気として中央管理方式の空気調和設備の必要性能が記載されている。
”国土交通省告示 昭45第1826号の第一項、第二項”には、より詳細な自然換気と機械換気の構造方法の記載がされている。
”国土交通省告示 昭45第1832号”には、より詳細な中央管理方式の空気調和設備の構造 方法の記載がされている。
25m2の居室において1200mm×900mmの引き違い窓が2箇所ある場合に自然換気とできるか検討する。
必要な換気有効開口面積は、床面積の1/20以上必要なので25m2/20=1.25m2
引き違い窓の有効開口面積は、実面積の半分が有効開口になるため
有効開口は1200mm×900mm×1/2×2箇所=1.08m2
よって、必要換気開口1.25m2>有効開口1.08m2より
自然換気では不足し、機械換気が必要となる。
火気使用室について
火を使用する設備や器具を設けた室内では、燃焼に伴い酸素が利用される。十分な換気が行われていない場合、酸素濃度が低下することで不完全燃焼が発生し一酸化炭素中毒を引き起こす危険性もあるため、通常の室より換気設備に留意する必要がある。 よって建築基準法の第28条第3項により、火気使用室への換気設備を設置が明記されている。(別表第1(い)欄(1)項に掲げる用途というのは、耐火建築物等としなければならない特殊建築物をいう。)
別表第1(い)欄(1)項に掲げる用途に供する特殊建築物の居室又は建築物の調理室、浴室その他の室でかまど、こんろその他火を使用する設備若しくは器具を設けたもの(政令で定めるものを除く。)には、政令で定める技術的基準に従つて、換気設備を設けなければならない。
建築基準法 第28条第3項
これに関連して
”建築基準法施行令 第20条の3”には、建築基準法の第28条第3項に定められた火を使用する室の適用範囲や換気風量/構造が記載がされている。
”国土交通省告示 昭45第1826号の第三項、第四項”には、より詳細な調理室等に設ける構造方法の記載がされている。
有害物質が発生する室について
有害物質(衛生上の支障を生ずるおそれがあるものとして政令で定める物質)が発生する室内では、有害物質濃度が上がることによる健康被害を防止するため、通常の室より換気設備に留意する必要がある。よって建築基準法の第28条2により、著しい有害物質(石綿その他の著しく衛生上有害なものとして政令で定める物質)の使用禁止と、有害物質が発生する室内への換気設備を設置が明記されている。
建築物は、石綿その他の物質の建築材料からの飛散又は発散による衛生上の支障がないよう、次に掲げる基準に適合するものとしなければならない。
建築基準法 第28条2
一.建築材料に石綿その他の著しく衛生上有害なものとして政令で定める物質(次号及び第三号において「石綿等」という。)を添加しないこと
二.石綿等をあらかじめ添加した建築材料(石綿等を飛散又は発散させるおそれがないものとして国土交通大臣が定めたもの又は国土交通大臣の認定を受けたものを除く。)を使用しないこと。
三.居室を有する建築物にあつては、前二号に定めるもののほか、石綿等以外の物質でその居室内において衛生上の支障を生ずるおそれがあるものとして政令で定める物質の区分に応じ、建築材料及び換気設備について政令で定める技術的基準に適合すること。
これに関連して
”建築基準法施行令 第20条の4~9”には、建築基準法の第28条2に定められた有害物質の内容や換気風量/構造が記載されている。
シックハウス対策について
近年、建築技術の発展により住居の断熱化や気密化が進み、すきま風が少なく室内の汚染空気が滞留しやすくなり、シックハウスと言われる建材から発散される有害物質による健康被害が発生しやすくなっている。それを防止するために、2003年(平成15年)に建築基準法が改正され建築基準法に基づくシックハウス対策が義務付けられた。
シックハウス対策に係る改正により、原則として全ての建築物に機械換気設備による24時間運転が義務付けられている。
換気設備の設置免除条件として
”常時外気に開放された開口部と隙間の換気上有効な面積の合計が 床面積1m2あたり15cm2以上設けられた居室”などがあり、古い建物など気密性の低い建物は、換気設備の設置が免除される。ただしこの法律は、上記の建築基準法(28条第2項)の有効開口と考え方が異なり、窓などの開口は締め切られてしまう可能性ため開口部として参入していない。
これに関連して以下の告示がある。
平成15年 国土交通省告示第273号、ホルムアルデヒドの発散による衛生上の支障がないようにするために必要な換気を確保することができる居室の構造方法を定める件
平成15年 国土交通省告示第274号、ホルムアルデヒドの発散による衛生上の支障がないようにするために必要な換気を確保することができる換気設備の構造方法を定める件
建築基準法以外の換気基準
上記の建築基準法の他に、労働安全衛生法や建築物における衛生的環境の確保に関する法律(略称:建築物衛生法またはビル管理法)などの法規により別の換気基準が設けられている。建築基準法と相違する点もあるため、該当建築物の場合はこれらの法規も確認する必要がある。
労働安全衛生法は、労働者が執務する事務所に対して事務所衛生基準規則が定められているほか、労働者が有機溶剤や粉じんなどの有害物質が発生する作業場で作業する場合についても特定化学物質障害予防規則など各種規則で細かく規定されている。なお、ここでは事務所衛生基準規則のみについて記載している、それ以外の各種規則についてここで記載すると煩雑になるので別記事にまとめている。
建築物衛生法は、特定建築物に適用される法律である。特定建築物とは、不特定多数の者が利用する建築物のことであり、特定用途に利用される部分の面積が3000m2以上(学校教育法第1条に規定する学校の場合は8000m2以上)の建築物と定義されている。なお、この建築物衛生法における換気量は一人あたり毎時30m3が推奨されており、法規(建築基準法)で定められた一人あたり毎時20m3より大きい。
各法規の目標基準値の相違点
以下の表で、建築基準法・労働安全衛生法と建築物における衛生的環境の確保に関する法律・ 労働安全衛生法(事務所衛生基準規則)の3つの法規の目標基準値を比較した。
法規名 | 建築基準法 | 建築物における衛生的環境の確保に関する法律 | 労働安全衛生法(事務所衛生基準規則) |
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適用範囲 | 中央管理式の空気調和設備 | 空気調和設備あるいは機械換気設備※1 | 空気調和設備あるいは機械換気設備※2 |
浮遊粉塵量 | 空気1m3につき0.15mg以下 | 空気(1気圧、25℃)1m3につき0.15mg以下 | |
CO含有率 | 10ppm以下 | 10ppm以下 (但し、外気が汚染されているためCO含有率10ppm以下の供給が困難なとき20ppm以下) |
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CO2含有率 | 1,000ppm以下 | ||
温度 | 1)17℃以上28℃以下 2)居室における温度を外気の温度より低くする場合は、その差を著しくしないこと。 |
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相対湿度 | 40~70% | ||
気流 | 0.5m/s以下 | 0.5m/s以下 かつ、室に流入する空気が、特定の労働者に直接、継続して及ばないようにする |
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ホルムアルデヒドの量 | – | 空気(1気圧、25℃)1m3につき0.1mg/m3以下 |
※1:以前は、中央管理方式の空調設備に限定されていたが改正された。
※2:空気調和設備あるいは機械換気設備以外の換気方法であっても、CO濃度を50ppm、CO2濃度を5,000ppm以下とすることとされている。