室内外圧力差による扉開閉支障

機械換気を行うことにより室内が正圧または負圧になる場合、室内外に圧力差が発生する。圧力差により、ドアなどの扉を開閉する際に通常より大きな力が必要になってしまうため、扉の開閉に支障が出ないような圧力差になるように検討する必要がある。

なお、機械換気方式と正圧/負圧については、以下の記事を参照。

参考記事

室内外圧力差の求め方

避難安全検証法の解説書によると室内圧力上昇が扉開放の妨げとならないよう室内外圧力差を50Pa以下とするように決定する必要がある。ただし、室内外圧力差50Paは力のない老人や子供には開放が難しい場合があるため、室内外圧力差は20Pa以下となるようにすることが望ましい。不要な室内外圧力差を減らすためには、吹出口や吸込口などの開口を設置し空気の抜け道を用意する必要がある。

室内外の圧力差は風速と風圧の関係式から求めることができる。
ΔP=1/2×ρ×v2
 ΔP:室内外圧力差[Pa] 
 ρ:密度[kg/m3](空気の場合ρ≒1.2[kg/m3])
 v:速度[m/s](吹出口などの開口での風速)
※この式は理論式であり、実際にはこれに開口形状による形態損失(圧力損失)が加わる。

この式の風速vは風量と風速の関係式より求めることができる。
v=Q/(A×3600[s/h])
 Q:風量[m3/h]
 A:吹出口などの有効開口面積の合計[m2] 

なお上記の式は、隣室側の風速による室内圧力が考慮されていないので、建物の換気フローから、隣室にどれだけの風量が移動するのかを考えて風速を決める必要がある。
例えば、以下の図のように同風量の送風のある同体積の室、A室とB室が並んでいる場合を考える。この場合は、A室とB室は共に正圧となり、風量は圧力による反発の少ない隣室の方に流れていき、理論上はA室からB室への風量の移動は無い事になる。

隣室 室内外圧力
補足

ベルヌーイの定理と室内外圧力差について

風速と風圧の関係式は、エネルギー保存則のベルヌーイの定理に基づいた式である。

ベルヌーイの定理
P1+1/2ρv12+ρgz1=P1+1/2ρv12+ρgz1=const.

 P:圧力[Pa]
 ρ:密度[kg/m3]
 v:速度[m/s]
 z:高さ[m]
※Pは圧力エネルギーの項、1/2ρv2速度エネルギー項、ρgzは位置エネルギー項である。(今回の場合、位置エネルギーの変化は微小なので省略している。)

ベルヌーイの定理 室内外圧力

機器によって室内に送風がなされると速度による圧力が蓄えられる。室内に十分な風量が行き渡ると圧力エネルギーP=P1(室内圧力)、v1=0になる。(密閉空間の場合。実際は開口から放出される分、風量を導入しているためP1=一定であるとしている。)その圧力が開口で速度v2を持って放出されるため、開口部での圧力P2はベルヌーイの定理より求めることができる。扉を開放する瞬間はその圧力差ΔPが扉にかかってくると考えることができる。
P1+0= P2+1/2ρv22よりΔP=P1-P2=1/2ρv22

補足

すき間から漏れる空気について

開口面積には、ガラリなどの計画開口だけでなく、構造体のすき間面積を算入する必要がある。クリーンルームのように高気密な室でなければ、壁などの構造体のすき間から相当量の空気が漏れている。しかし、実際のすき間面積を計測することは困難であるので、C値(相当すき間面積)を参考にする。C値は0.16~5.0程度で高気密であるほど数値は小さい。

相当すき間面積による開口面積[m2]=室面積[m2]×C値[cm2/m2]×1/10000[m2/cm2]

必要ドア開放力

開き戸(ドア)を開放する際に必要な力[N]を、開扉力という。
開扉力は、扉の種類や仕様によって決まる初動開扉力(初期時ドア開放力)と前述の室内外圧力差による必要開扉力合計することで求められる。

初動開扉力は、室内外圧力差がない場合にドアを開けるのに必要な力をいう。
BL認定基準で30[N]以下にすることとされている。

室内外圧力差による必要開扉力は、以下の式により求められる。

室内外圧力差による必要開扉力[N]=室内外圧力差[Pa]×ドア面積[m2]✕1/2

※開き戸(ドア)は、軸金物などを中心に回転して開閉する扉であるので、開閉に必要な力は面積×室内外圧力差の半分となる。

室内圧力 扉開放
室内圧のイメージ

室内圧力 扉開放 反力
扉開放のための反力

開扉力は、日本工業規格(JIS規格)で「戸が円滑に開く、及び閉じる」のに必要な力として50[N]以下としている。これは成人男性が10%の力で開けられる大きさである。

参考>>必要ドア開放力の簡易計算シート

例題
 
問題

風量300[m3/h]の排気ファンが設置された床面積50[m2]の便所において、給気口を設けなかった。このときの室内外圧力差と必要ドア開放力を求める。
扉の寸法をW1200×H2000、扉の初期時ドア開放力を15[N]、相当すき間面積を3.0[cm2/m2]とする。

解答

すき間面積は、室面積[m2]×C値[cm2/m2]×1/10000[m2/cm2]=50×3.0×1/10000=0.015[m2]
風速は、給排気風量差[m3/h]/(開口面積[m2]×3600[s/h])=300/(0.015×3600)≒5.56[m/s]

よって室内外圧力差は、1/2×密度(≒1.2[kg/m3])×速度2[m/s]=1/2×1.2×5.562≒18.6Paとなる。

室内外圧力差で必要になるドア開放力は、1/2×室内外圧力差[Pa]×ドア面積[m2]=1/2×18.6×{1200mm×2000mm/1000000}≒22.3Nより、必要ドア開放力=初期時ドア開放力+室内外圧力差で必要になるドア開放力=15+22.3=37.3[N]となる。この時、ドアノブ等の操作なく押すだけで開けることの出来るプッシュ式ドアの場合、開放力以上の力が掛かっているため風圧によって扉が開きっぱなしになってしまう。