ダクトの圧力損失計算

送風機(ファン)の能力を示す重要な指標に、風量の他に機外静圧というものがある。ファンに機外静圧をかけることで、風道(以下:ダクト)によって圧力損失があっても風量を必要な場所まで届けることができる。

静圧と動圧

ダクト設計においては、吹出口まで風が進む力(圧力)を持ち続けることが重要である。圧力とは、空気の持つ力をいい、圧力がないと風を送り出すことができない。
全圧(総圧)とは、動圧と静圧の和をいう。
動圧とは、空気の持つ力の内のダクト内を空気が進む力、速度エネルギーをいう。
静圧とは、空気の持つ力の内のダクト内を満たす空気の圧力の力をいう。

膨らんだ風船が静圧と動圧をイメージするのに良く使われる。
膨らんだ風船を全方面に押す力が静圧で、風船の口を開けたときに出てくる空気の勢いが動圧である。

圧力損失

ベルヌーイの定理によれば静圧+動圧=const(常に一定)になるが
実際はダクトの表面の凹凸にぶつかることで摩擦で失われる圧力があり、これを圧力損失という。

よってファンを選定する際は「風量」だけでなく、ダクト内で圧力損失されても吹出口まで風が進む力を持ち続けるために必要な圧力をかける必要がある。この圧力を機外静圧という。
機外静圧とはファンなどの機器以外で必要な圧力のこと。つまり、機外静圧は機器に接続するダクトで失われる圧力を補うためにかける力である。
なお、速度に変換されたエネルギーを動圧と呼ぶので、ファンにかかる力は静圧と呼ぶ。

なお、エネルギー保存則から考えると高所に向かうダクトであれば、空気を持ち上げるために位置エネルギー分加圧する必要があるが
実際には空気は水などの液体と異なり大気との質量差が僅かなため位置エネルギーは基本的に無視される。

参考記事

圧力損失の計算方法

ダクト径の決定方法により定圧法と等速法がある。
定圧法は、全ての区間でダクト内圧力損失が設計程度で過大にならないようにダクト径を決定する方法
等速法は、全ての区間でダクト内風速が設計速度程度となるようにダクト径を決定する方法 である。

ダクト径が小さいとダクトの表面にぶつかる風の割合が大きいため圧力損失が過大にならないように検討することが重要になり、
ダクト径が大きくなると、風量に対しての圧力損失が減っていくため風速が過大にならないように検討すること重要になる。

等圧法でダクト径を検討すると、
圧力損失が過大にならないため、ダクトの仕様やファンの番手を決める上で最適なダクト寸法を決定できるが、
各末端の吹出口や吸込口の風量にアンバランスを生じやすく、各末端には必ずVD(風量調整ダンパー)が必要となる。
(送風ダクトでは末端の吹出口ほど風量が過大になり、排風ダクトでは送風機付近の吸込口ほど風量が過大になる)

等速法でダクト径を検討すると、
各末端の吹出口や吸込口の風量をなるべく等しくできるため、風量のアンバランスは起きにくいが、
ダクトの圧力損失が過大になるため、低圧ダクトの検討には不向きである。

※圧力損失の計算には全圧損失が算出される全圧基準による場合と、静圧損失が算出される静圧基準による場合とがあるが、
設備手帳や茶本などに記載されているのは定圧法や等速法に用いられる全圧基準の局部抵抗であるので、
静圧基準の局部抵抗で求める静圧再取得法には用いることができない

参考書籍

送風機の吐出動圧

送風機が風を送り出すために必要な力である圧力のうち、送風機の仕様書等に示されているのは送風機の静圧である。
しかし、定圧法や等速法などの全圧基準での圧力損失計算では全圧損失が算出される。つまり速度エネルギーである動圧分も加算した値が算出されるのである。よって送風機の吐出動圧分を差し引く必要がある。
(実務では余裕側になるので減じないことも多いが、高圧ダクトになると動圧が大きくなるため、差し引かないと選定ファンが過大になってしまう。)

圧力損失の計算式

1つのファンが受け持つダクト系統内で、最も圧力損失のあるルートについてダクトの部位ごとに圧力損失がいくらあるか求め、それを合算したものが圧力損失となる。

直管部分の圧力損失

ダクトの表面を空気が進むことで圧力が摩擦により損失されるので直管部分での圧力損失は
圧力損失[Pa/m]=摩擦係数×動圧[Pa]/丸ダクト直径[m]

摩擦係数や動圧の式、矩形(長方形)から丸(円形)への換算式は以下を参照。

参考記事

継手部分の圧力損失

継手部分は直管と異なり風の進む方向が一定ではないので、
直管より大きな摩擦損失が起きる。計算で求めることが困難なため継手部分での圧力損失は
圧力損失[Pa/個]=動圧[Pa]×抵抗係数

抵抗係数は、実験等で求められた決まった係数であり、設備手帳や茶本には継手形状により異なる抵抗係数が記載されている。

局部抵抗係数ε

名称 状態 抵抗係数ε
H/W R/D R/W
エルボ(円形) 0.5 0.71
0.75 0.33
1 0.22
1.5 0.15
2 0.13
エルボ(矩形) 0.25 0.5 1.3
0.75 0.57
1 0.27
1.5 0.22
0.5 0.5 1.3
0.75 0.52
1 0.25
1.5 0.2
1 0.5 1.2
0.75 0.44
1 0.21
1.5 0.17
0.25 0.5 1.3
0.5 1.3
1 1.2
4 1.1
V3/V1
割込分岐(90°) 0.2 0.26
0.4 0.12
0.6 0.07
0.8 0.11
1 0.24
直角円すい分岐(90°) 0.2 0.85
0.4 0.74
0.6 0.62
0.8 0.52
1 0.42
1.2 0.36
1.4 0.32
コニカル分岐(45°) 0.2 0.84
0.4 0.61
0.6 0.41
0.8 0.27
1 0.17
1.2 0.12
1.4 0.12
A1/A2
急縮小 2 0.26
4 0.41
6 0.42
10 0.43
ダンパ羽根4枚 θ=0 0.52
25mmグラスウール内張り吸音ボックス 1.4(a/L)0.83×(H/L)-0.53

空気調和衛生工学便覧第14版

圧力損失計算の例題

ダクトの圧力計算を以下の例題を用いて説明する。先ほどの圧力損失の計算式を利用する方法と簡易計算による場合を紹介する。
なお、分岐や合流がある場合や排煙ダクトによる場合などの圧力損失計算は、別ページにまとめた。これらについては部位ごとに計算するのは煩雑であるため、ダクト静圧計算表を利用している。

参考記事

以下の図の送風機につないだダクトにかかる圧力損失を検討する。制気口から風量400m3/hを吸込み、ダクト200φを通り、ベントキャップから400m3/hが排気される。

送風機アイソメ

計算式による方法

絶対粗度を0.15mmとすると、200φの摩擦係数は0.0237
200φに400CMH通るので、速度は約3.54m/sより
動圧=1/2×速度v2×密度ρ=1/2×(3.54)2×1.2kg/m3≒7.52Pa

吸込側の圧力損失は、ダクト直管が7m(1+3+2+1)、ダクトエルボ200φ×3ヶ、制気口×1ヶにてかかる
・直管部分の圧力損失=長さ×摩擦係数×動圧/丸ダクト直径=7×0.0237×7.52/(200×10^(-3))≒6.24Pa
・ダクトエルボは抵抗係数を0.22とすると、エルボの圧力損失=個数×動圧×抵抗係数=3×7.52×0.22≒4.96Pa
・制気口形状を以下とすると

静圧計算詳細

300×300(開口率0.7)の管入口+HS
400×400への急拡大と、400×400の直角エルボと、200φへの急縮小の複合図形と考えられるため

管入口の圧力損失  =2.12(動圧)×0.5(抵抗係数) ≒1.06
HSの圧力損失    =2.12(動圧)×1.3(抵抗係数) ≒2.76
急拡大の圧力損失  =2.12(動圧)×0.32(抵抗係数)≒0.68
直角エルボの圧力損失=0.33(動圧)×1.2(抵抗係数) ≒0.40
急縮小の圧力損失  =0.33(動圧)×0.38(抵抗係数)≒0.13
より1.06+2.76+0.68+0.40+0.13=5.03Paとした

※抵抗係数の設備手帳にないものは茶本の値を参考にしている。HSはメーカーのカタログ値を参照した。

参考書籍

排気側の圧力損失は、ダクト直管が1m、ベントキャップ×1ヶについて検討する
・直管部分の圧力損失=長さ×摩擦係数×動圧/丸ダクト直径=1×0.0237×7.52/(200×10^(-3))≒0.89Pa
・ベントキャップは有効開口1.0、抵抗係数を1.5とすると、ベントキャップの圧力損失=個数×動圧×抵抗係数=1×7.52×1.5≒11.28Pa

よってダクト経路における全ての圧力損失の合計は
6.24+4.96+5.03+0.89+11.28≒28.4Pa となる

計算書(ダクト静圧計算書)あり

簡易計算式による方法

ダクト径が単位圧力損失1.0Pa/m以下で決定されているとして圧力損失を計算する簡易計算がある

※この方法は一般的な低圧ダクト(圧力損失を1.0[Pa/m]以下として決定したダクト)においては近い値が算出できるため有効であるが
高圧ダクトにおいては実値と大きく異なってしまうため簡易計算を用いるべきではない

ダクト長さは1m+3m+2m+1m+1mより、直管長さ8m
ダクトエルボの相当長を3mとすると、局部長さ3m×3ヶ=9m

メーカーカタログ値や設備手帳の吹出口類の全圧損失の値を参照し
制気口の圧力損失を8Pa、ベントキャップの圧力損失を10Paとする

以上より圧力損失は
(8.0+9.0)m×1.0Pa/m+8Pa+10Pa=35Paとなる

※計算式による方法より通常は若干高くなる
※さらに簡易的に局部長さを直管長さの×1.0としてみる場合もある
この場合、今回の例であれば直管長さ8mより、8.0m×2倍×1.0Pa/m+8Pa+10Pa=34Paとなる

参考記事

継手の局部損失係数の選定

設計図などでダクトの継手形状が明確でない場合、どの局部損失係数を利用するべきか選定するのが難しい。継手の選定がいい加減になると、実際の施工と圧力損失に大幅な差が出てしまう。
私は標準仕様を参照し以下のように決定しているので、参考に記載する。

スパイラルダクト(円形ダクト)

・エルボは一般にR/D=1.0より、抵抗係数0.22
150φまで成形品として、それより上のサイズはセクション(海老継ぎ)とする。
拡大継手縮小継手(片落管)の角度θは30~40°程度とする(片側15°~20°)。
・スパイラルダクトのS管継手はZ型(30°)に近い形状であり、L/D<0.5になることが多い。
※合流や分岐のダクトはコニカル継手とすることが望ましく、標準仕様にもコニカル継手が記載されているが、実際の施工時にはドン付けになることが多い。

矩形ダクト(角ダクト)

・エルボは一般にR/D=1.0より、正方形のダクト(H/W=1.0)では抵抗係数0.25
拡大継手の角度θは30°(片側15°+15°)
縮小継手の角度θは60°(片側30°+30°)。
※コイルやフィルター、ファン廻りはこれより2倍程度は急角度とする(公共建築工事標準仕様書では拡大θは60°、縮小θは90°)。
※合流や分岐のダクトはテーパー付きとすることが望ましく、標準仕様にもテーパー付きが記載されているが、実際の施工時にはドン付けになることが多い。

・ダンパーにおいて平行翼は全閉全開で使用するもの、対抗翼は開閉の間で調整するものに使用するもので、公共建築工事標準仕様書でもVDは対抗翼としている。(開度0°であれば平行翼と対抗翼のどちらにせよ、抵抗係数0.52である。)