配管の保温厚と保温仕上

配管工事では、配管材に保温材を巻く場合が多くある。
これは配管内の流体と配管外とに温度差がある場合に多く用いられる。保温の目的は主に以下のようなものがあり、配管用途により保温材を巻く目的が異なり、それにより保温の仕様を選択する必要がある。

  • 保温目的…配管内の流体の温度を保つため。
  • 結露防止…配管内外の温度差(主に冷水)により結露水が発生し、建築物にトラブルを起こすことを防ぐため。
  • 断熱目的…配管内の温度(主に熱気)が外部に影響することを防ぐため。
  • 消音目的…流体が配管に当たる衝撃音を減らすため。

保温材の施工

配管の施工箇所によって保温の仕上方法を検討する必要がある。公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)では、施工の仕上箇所で5タイプに分類し、材料および施工順序の詳細を記載しているので確認する必要がある。なお、施工方法は様々あるが一般的に使用されている保温仕上方法は以下のようになる。なお、配管の保温材については別記事を参照。

参考記事
仕上箇所 仕上方法
屋内露出
(一般居室、廊下)
保温筒+(結露しやすい配管なら:ポリエチレンフィルム)+鉄線や粘着テープなど+合成樹脂カバー
屋内露出
(機械室、車庫、倉庫)
保温筒+(結露しやすい配管なら:ポリエチレンフィルム)+鉄線や粘着テープなど+(繊維系なら:原紙)+ALGCALK
保温筒+(結露しやすい配管なら:ポリエチレンフィルム)+ALGCALK塩ビ亀甲金網
屋内隠ぺい
(天井内、パイプシャフト内など)
保温筒+(結露しやすい配管なら:ポリエチレンフィルム)+ALGCALK亀甲金網
暗渠内やピット内 保温筒+ポリエチレンフィルムアクリル系塗料の焼付塗装ポリ付ALGCALK
屋外露出多湿箇所 保温筒+(結露しやすい配管なら:ポリエチレンフィルム)+鉄線や粘着テープなど+ラッキング

屋内露出の保温仕上

一般居室や廊下の屋内露出は、居住者などの人が触れるおそれのある場所であるため、仕上材(外装材)を用いることが一般的である。合成樹脂カバーラッキングによる仕上をするのが一般的である。

なお、合成樹脂カバーが一般的になる以前は、原紙+綿布巻き(アクリル系塗装)による仕上が一般的であったが、綿布仕上の場合は2回塗り塗装が必要な上に包帯のようにぐるぐる巻いていく必要があり施工手間が大きかった。

機械室などの保温仕上

機械室や車庫、倉庫などの関係者以外が立ち入る可能性の少ない屋内露出では、仕上材(外装材)は用いないのが一般的である。ただし、露出配管ではあるので見た目も重要であるため、原紙を利用し整形するのが好ましい。鉄線による仕上とする場合、鉄線がサビないように塩ビ鉄線(塩ビ亀甲金網)仕上とする。

屋内隠ぺいの保温仕上

屋内隠ぺいでは、隠蔽されてしまうので露出部分に比べて見た目を気にしないため、仕上材(外装材)は用いず保温筒をALGCやALKで包み配管に固定するのみとするのが一般的である。

ピット内や暗渠の保温仕上

ピット内や暗渠は、湿気が多い場所なので配管種に関わらずポリエチレンフィルムなどで防湿することで保温筒を保護する必要がある。反対に、配管からの結露水が建築物にトラブルを起こすことは少ない場所であるため、給水や排水などの結露防止目的の保温は巻かないことが多い公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)では、給水及び排水の埋設配管(土中配管、コンクリート埋設配管)は保温しないとしている。

なお、アクリル系塗料の焼付塗装やポリ付のALKやALGCが一般的になる以前は、防水麻布+アスファルト塗装(プライマー下地)による仕上が一般的であったが、防水麻布仕上の場合は2回塗り塗装が必要な上に包帯のようにぐるぐる巻いていく必要があり施工手間が大きかった。

屋外露出や多湿箇所の保温仕上

屋外露出や多湿箇所は、高い対候性を求められるため、仕上材(外装材)のラッキングを用いることが一般的である。多湿箇所では、湿気が多い場所なので配管種に関わらずポリエチレンフィルムなどで防湿することで保温筒を保護する必要がある。

保温用途ごとの保温厚と注意点

配管の必要な保温厚は、公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)にて配管用途や施工場所の区分によって決まっている。なお、寒冷や特別な事情がある場合は保温厚を規定値より上げるなどの対策が必要になる。

蒸気管の保温(100℃~)

蒸気は高温の配管であるため、保温厚はやや厚めになる。なお以下の表の保温厚は低圧(0.1MPa未満)のときの値であり、これより高圧な蒸気を取り扱う場合は必要な保温厚を計算する必要がある。

配管径(A) 15 20 25 32 40 50 65 80 100 125 150 200 250 300
保温厚(t) 20 30 40

給水や給湯、排水などの保温(常温~100℃未満)

給水や排水などの常温の配管では、主に結露防止の目的で保温する(配管内の流水の衝撃音を軽減する目的もある)。よって埋設部分などの結露水によって問題になることが少ない場所では保温を巻かない場合が多い。なお、排水管では耐火二層管や空調ドレン管などの結露防止効果のある配管種もあり、これらの場合は別途保温を巻く必要はない。

給湯や温水など100℃未満の配管では、主に配管保温の目的で保温するが常温の配管と同程度の保温厚とする。ただし、ポリスチレンフォームなどの熱に弱い保温材は使用しない。

配管径(A) 15 20 25 32 40 50 65 80 100 125 150 200 250 300
保温厚(t) 20 25 40

冷温水配管の保温(常温以下)

冷水や冷温水などの常温以下の温度となる配管では、結露防止のため保温には特段の注意を払う必要がある。結露水によって問題とならないように、配管支持材にウレタンバンドなどを用いて支持金物と直接接触させないようにしたり、水に弱い繊維系の保温材を使用しないようにしたりする。

なお、配管の使用温度が低温であるほど保温厚を厚くする必要がある。

(1)常温程度の冷水管や冷温水管、冷媒管など

配管径(A) 15 20 25 32 40 50 65 80 100 125 150 200 250 300
保温厚(t) 30 40 50

(2)2℃~4℃程度の冷水管や冷温水管、冷媒管など

配管径(A) 15 20 25 32 40 50 65 80 100 125 150 200 250 300
保温厚(t) 30 40 50

(3)-10℃程度の不凍液(ブライン管)

配管径(A) 15 20 25 32 40 50 65 80 100 125 150 200 250 300
保温厚(t) 30 40 50

冷媒管の保温(被覆銅管)

パッケージ空調機の冷媒管は一般的に被覆銅管を利用する。この被覆銅管の保温厚(被覆厚)は、上記の温度区分に関係無く、以下の値を利用する。

外径 6.35 9.52 12.70 15.88 19.05 22.22 25.40 28.58 31.75 34.92 38.10
ガス管[mm] 20
液管[mm] 7.5 10

保温が不要な配管

配管内の流体と配管外とに温度差が起きない配管の場合は、保温は不要とする場合がある。以下に一例を表示するが、ここに表示した配管種であっても寒冷地や特別な事情がある場合では保温することもあるので、保温してはいけない配管というわけではない。

消火配管類
非常時以外には運転しないので配管内外の温度差は発生しないとして保温しない。

圧縮空気配管
一般的には保温しないが、圧縮空気は等温変化でなく保温の有無は慎重に判断する必要がある。
例えば、コンプレッサーの発熱による流体温度上昇の影響を防ぐ断熱目的や、エアードライヤーによる流体温度下降による結露防止目的などで保温をする場合がある。

燃料ガス配管燃料油配管など
一般的には保温しない。ただし、寒冷地や高低温ガスであるなど配管の内外温度差を考慮する必要がある場合、保温やその他手法により対策が必要になる。

排煙ダクト
基本的には保温不要であるが、昭和56年建設省告示1098号「建築基準法施行令第百十五条第一項第一号、第二号及び第四号の規定を適用しないことにつき防火上支障がないと認める場合を指定する件」より、「小屋裏、天井裏、床裏等にある煙突の部分は、金属以外の不燃材料で覆うこと」とあるので屋内隠ぺい部は保温が必要になる。

空調ダクトの一部
 OAダクト…外気が室内に入ることで起きる結露の防止で保温する。
 EAダクト…室内空気を排気するので温度差が少なく通常保温しない。ただし、排熱が大きい場合などは断熱のため保温する。そのほか外壁から近いダクトはファンの停止時に外気を導入する可能性があるため1m程度は保温することが多い。
 SAダクト…空調空気の保温目的で保温する。
 RAダクト…室内空気を排気するので温度差が少なく通常保温しない。ただし、排熱が大きい場合などは断熱のため保温する。

参考記事

ダクトの保温

風道に利用されるダクトは、配管と異なり管径に関わらず保温厚は一定とする。公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)では以下のように保温厚が指定されている。

保温厚25(t)となるのは以下の場合

  • 屋内露出(機械室、書庫、倉庫)
  • 屋内隠ぺい(天井内、パイプシャフト内など)

保温厚50(t)となるのは以下の場合

  • 屋内露出(一般居室、廊下)
  • 屋外露出、多湿箇所

※ただし、消音チャンバーや消音エルボは25(t)、サプライチャンバーは50(t)

機器の保温

タンクやヘッダーなどの機器は、配管と異なり大きさに関わらず保温厚は一定とする。公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)では以下のように保温厚が指定されている。

保温厚25(t)となるのは以下の場合

  • 膨張タンク
  • 衛生設備の鋼板製タンク

保温厚50(t)となるのは以下の場合

  • 冷水タンク、冷水ヘッダー
  • 冷温水タンク、冷温水ヘッダー
  • 温水タンク、温水ヘッダー
  • 蒸気ヘッダー
  • 還水タンク
  • 熱交換器
  • 貯湯タンク
  • 排気筒

保温厚75(t)となるのは以下の場合

  • 煙道