空調機の吹出空気温度と送風量

空調によって目標の室内温湿度とするため、空調機の吹出空気温度送風量を決定する。室内には、構造体を通じて侵入してくる熱負荷(外皮負荷)や内部の人による熱負荷など(室内負荷)があり、目標の室内温湿度とするためには室内にかかる熱負荷を考慮し吹出空気温度を決定する必要がある。

また、湿度調整を厳格に行いたい場合は、吹出空気温度と送風量の調整による方法のほか、過冷却後に再熱する方法をとる場合もあるので、これも含めて記載する。

熱負荷について

熱負荷の種類

熱負荷には、温度変化によって起きる顕熱負荷と、物質の状態を変化させるために必要な潜熱負荷とがある。

例えば、貴方が真夏日に空調の効いた事務所で作業していたとする。そんな時に、営業廻りしていた社員チームがゾロゾロと社内に戻ってきた場合に、モワッと蒸し暑くなったような感じがすると思う。これは、この社員チームが大きな熱負荷を持っているからであり、暑くなったのは顕熱負荷が増加したからであり、モワッと蒸すような感じがしたのは潜熱負荷が増加したからである。室内では、人体熱によりを室内の温度が上がった(=顕熱負荷)ことと、発汗が水蒸気となり蒸発し室内の水蒸気が増えた(=潜熱負荷)ことによる熱負荷の増加が起きたのである。

冷房による熱負荷の処理

空調機の冷房運転では、空気を冷やすことで顕熱負荷の処理が出来るだけでなく、露点温度より空気を冷やすことで空気中の水蒸気を減らすこと(=除湿)が出来るため潜熱負荷の処理ができる。

冷房により室内温度が下がり、室内温度が露点温度より低い温度になると抱えきれなくなった水蒸気が凝縮し、空調機内でドレン水として排出される。さらに冷房運転を続けると、空調機の吹出口で相対湿度100%に近い値を取りながら温度と湿度を降下させていく。

補足

理論上は飽和状態になる相対湿度100%で水蒸気が凝縮するが、実際には相対湿度が100%になる前の相対湿度95%程度で凝縮(除湿)を始める。さらに空調機吹出口の前で送風機などの熱により温度が上がり相対湿度が下がる。よって空調機吹出口での相対湿度は、エアハンドリングユニットでは相対湿度90~95%程度、パッケージ空調機では相対湿度85~90%程度である。

ちなみに、エアハンドリングユニットでは空調機出口空気状態点のほかに、空調機内のコイル出口空気状態点をプロットする場合もある。
コイルの出口空気状態点は、コイル仕様と面風速と装置露点温度から求める必要があるが、おおよそ相対湿度95%程度である。
空調機の出口空気状態点は、コイルの出口空気状態点に送風機による温度上昇を加えたものになる。送風機による温度上昇は、軸動力から変換されたエネルギーの内で熱に変換された量がどれくらいかを求める必要があるが、おおよそ1~1.5℃程度である。

参考書籍

暖房による熱負荷の処理

空調機の暖房運転では、空気を温めることで顕熱負荷の処理が出来るが、空気を温めても水蒸気を増やすこと(=加湿)が出来ないため潜熱負荷の処理はできない。よって空調機に加湿器を取り付けるなど別途加湿方法を検討する必要がある。

暖房により室内温度を上げると、空気が膨張するため飽和水蒸気量(=空気の水蒸気含有量の最大値)が上がるが、空気の水蒸気含有量は増えないので相対湿度(=飽和水蒸気量に対する空気の水蒸気含有量の割合)は下がっていく。さらに暖房運転を続けていると空気がどんどん乾燥していく。

参考記事

冷暖房の顕熱比

空調機の顕熱比SHFは、温度と湿度を変化させる冷房運転では1.0より小さくなり、温度のみを変化させる暖房運転では1.0となる。なお、冷房時の顕熱比は空調機の吹出空気温度が露点温度より低い値であるほど、潜熱処理量が上がるため空調機の顕熱比が小さくなる

参考記事
参考
 

顕熱比SHF=顕熱量/全熱量 (今回は、顕熱処理量/全熱処理量のこと)
全熱量=顕熱量+潜熱量より、顕熱比SHF=顕熱量/(顕熱量+潜熱量)となる。
よって、顕熱量と顕熱比が分かれば潜熱量を求めることができる。

潜熱量=顕熱量×(1-顕熱比)/顕熱比

空調機の吹出空気温度

目標室内温湿度にするための空調機出口空気状態点は、熱負荷の顕熱比と湿り空気線図からを求めることが出来る。
(求め方については、当記事下部で例題を用いて説明している。)

一般に吹出空気温度差で熱負荷を調整するのではなく、空調機の送風量を増減させて熱負荷を調整する。通常の空調機の吹出空気温度差は、冷房10℃前後(8~13℃程度)、暖房16℃前後(14~20℃程度)としている。

吹出温度差を大きくするシステムを大温度差空調システムといい、これにより空調機の送風量を小さくすることが出来る。送風量を小さくすると送風機の能力やダクト径を小さく出来るなどのメリットがある。ただし、大温度差空調システムとするには、冷温水コイルの温度差を通常の5℃差より大きくする必要がある。

※冷温水の往還温度差は、チラーやボイラーなどの熱源機器で5℃差となるように設定するのが一般的である。
空調用のチラーの場合、冷水は(往温度~還温度)=7℃~12℃、温水は(往温度~還温度)=45℃~40℃とすることが多い。

空調機の必要送風量

必要送風量の式

空調機の必要送風量は以下の式により、熱負荷[W]吹出空気温度と目標室内温度との温度差[K]から求めることが出来る。吹出空気温度と目標室内温度との温度差を吹出温度差[K]という。

必要送風量[m3/h]=顕熱負荷の処理量[W]/(0.33×吹出温度差[K])

参考

なお、上式は顕熱負荷から必要送風量を求める式であるが、吹出比エンタルピー差がわかれば全熱負荷から必要送風量を求めることも出来る。ただし、空調機の顕熱比と上式により潜熱負荷の処理量は決まってしまうため、設定や調整が容易な温度差による式により検討することが一般的である。

必要空調風量[m3/h]=全熱負荷の処理量[W]/(0.33×吹出比エンタルピー差[kJ/kg(DA)])

吹出温度差と湿り空気線図

エアハンドリングユニットや外気導入型のパッケージ空調機などの外気を導入する機器では、必要送風量>必要外気導入量であることを確認する必要がある。外気導入量とは、空調室内の換気必要量の合計を指し、外気導入量が必要送風量より大きい場合は、吹出温度差を小さくするか過冷却後に再熱とする必要がある。この場合は、温湿度変化を必要送風量の式のみで検討することが難しくなるため、湿り空気線図に温湿度状態点をプロットして検討する必要がある。

参考記事

空調機の必要風量を求める手順は以下のようになる。

①空調機の処理する室内熱負荷の合計を求める。また、空調機で外気を導入する場合は室内換気量の合計も求める。
②室内熱負荷の合計より、空調機の目標とする顕熱比(SHF)を決定する
③必要な吹出温度差を求める。
④熱負荷と吹出温度差、必要送風量の式より必要送風量を求める。
⑤必要送風量>必要外気導入量であることを確認する。
⑥前項が満たされない場合、吹出温度差を小さくするか過冷却後に再熱とするか検討する。

※空調機側で処理する顕熱比が決定してしまうので、同じ空調機で空調する場合は室内熱負荷の顕熱比が同程度の室である必要がある。顕熱比が大きく異なる室は、別途空調機を設置するなどして系統を分ける必要がある。

①~⑥の手順の詳細は、以下に例題を用いて記載する。

例題
 
問題

以下の図のA~E室を目標室内温湿度条件(26℃、50%)になるように、エアハンドリングユニット1台を用いて空調する。室内熱負荷の合計は全熱で10,000W(顕熱7,000W:潜熱3,000W)、室内換気量の合計は2,500[m3/h]である。この時の必要送風量と吹出温度差を求める。なお、空調機の特性により空調機吹出口での相対湿度は90%になるものとする。

吹出温度差と必要送風量
解答


室内熱負荷の合計を求める:問題文より、顕熱負荷は1,400[W]×5室=7,000[W]、潜熱負荷は600[W]×5室=3,000[W]になる。
室内換気量の合計を求める:問題文より、換気量は500[CMH]×5室=2,500[CMH]


空調機の目標とする顕熱比(SHF)を決定する:顕熱比(SHF)=顕熱量/全熱量=7,000/(7,000+3,000)=0.7とする。


空調機出口空気状態点を求める:問題文より、空調機吹出口での相対湿度は90%で、熱負荷の顕熱比(SHF=0.7)と目標室内温湿度条件(26℃、50%)から湿り空気線図より、空調機出口空気状態点は(12.6℃、90%)になる。
必要な吹出温度差を求める:吹出温度差=空調機出口温度と室内温度との温度差より、26.0-12.6=13.4[K]になる。
(通常の冷温水温度差での空調システムとするべきか、大温度差空調システムとするべきかは良く検討する必要がある。)

必要空調風量の湿り空気線図


必要送風量を求める:顕熱負荷=7,000[W]と吹出温度差=13.6[K]、必要送風量の式より必要送風量を求める。
必要送風量[m3/h]=顕熱負荷の処理量[W]/(0.33×吹出温度差[K])=7000/(0.33×13.4)≒1583[m3/h]になる。


ここで、必要送風量>必要外気導入量であることを確認する。
この例題では、必要送風量≒1583[m3/h]<必要外気導入量=2500[m3/h]となってしまうため、吹出温度差を小さくするか過冷却後に再熱とするか検討する必要がある。

空調機の送風量を1583→2500[m3/h]と大きくする際に、吹出温度差を13.4[K]のままにしてしまうと風量が増加した分の冷却量が上がるため過冷却状態になってしまう。よって、過冷却を防止するため吹出口温度差を小さくするのが一般的である。

ただし、吹出温度差を小さくするとその分の除湿量が減ってしまうため湿度コントロールが重要な室では吹出温度差を変更せず、一旦過冷却としてから再熱する方法もある。

参考記事

吹出温度差を小さくする場合


必要送風量の式を変形し、吹出温度差を求める。
吹出温度差=顕熱負荷の処理量[W]/(0.33×空調風量[m3/h])=7000/(0.33×2500)≒8.5[K]

よって、空調機出口温度=室内温度-吹出温度差より、26.0-8.5=17.5[K]となる。
空調機吹出口での相対湿度は90%であるので、空調機出口空気状態点は(17.5℃、90%)になる。

この場合の室内温湿度条件は湿り空気線図と熱負荷の顕熱比(SHF=0.7)とより、室内温湿度条件(26℃、61%)となる。目標室内条件より相対湿度が10%程度高くなる。

吹出温度差の湿り空気線図の湿り空気線図

過冷却後に再熱とする場合


必要送風量の式を変形し、吹出温度差を求める。
吹出温度差=顕熱負荷の処理量[W]/(0.33×空調風量[m3/h])=7000/(0.33×2500)≒8.5[K]

目標室内温湿度条件(26℃、50%)とするための、空調機出口空気状態点を決定する。湿り空気線図を用いて、室内温湿度条件点から熱負荷の顕熱比(SHF=0.7)の傾きの線と温度差8.5[K]との交点(17.5℃、71.5%)を、空調機出口空気状態点とする。

過冷却点から加熱(=再熱)を行い空調機出口空気状態点(17.5℃、71.5%)とするので、過冷却点は相対湿度90%で空調機出口空気状態点と絶対湿度が等しい(=加熱しても水蒸気量は増加しないため)点を湿り空気線図を用いて求める。よって過冷却点(13.9℃、90%)、再熱必要温度は17.5-13.9=3.6[K]となる。

過冷却と再熱の湿り空気線図の湿り空気線図