配管保温材の種類
公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)では配管の保温材は、グラスウール(GW)、ロックウール(RW)、ポリスチレンフォーム(EPS)の3種類が記載されている。その他の一般的に利用されている配管保温材も含めて以下に記載する。なお、保温の施工(保温厚や保温仕上)については別記事にまとめた。
保温材の種類
グラスウール(GW)
グラスウール |
グラスウールは繊維系の保温材の一種。3種の保温材のなかで最も安価である。
ガラス繊維で不燃材料であるが、加熱により収縮が起きるため防火区画には使用できない。
繊維が水を吸ってしまうことで断熱性能が下がるため、湿気に弱い。
また、グラスウールには密度による区分が存在し、配管の保温材としては24K、32K、40K※が主に利用されている。
※Kとは密度[kg/m3]を表した単位である。
ロックウール(RW)
ロックウール |
ロックウールは繊維系の保温材の一種。
鉄鋼スラグ繊維で不燃材料であるため、配管保温材としてはグラスウールと同じような施工が可能であるが、防火区画の区画貫通材として使用が可能である。
繊維が水を吸ってしまうことで断熱性能が下がるため、湿気に弱い。
また、ロックウールには密度による区分が存在し、40~100Kを1号、101~160Kを2号、161~200Kを3号としている。
建築物の断熱としては、鉄骨造の構造材などにロックウール吹付(石綿吹付)が多く利用されている。
石綿(アスベスト)含有保温材
石綿(アスベスト)とは、天然の繊維状けい酸塩鉱物であり、飛散した石綿を吸い込むことで肺線維症や悪性中皮腫、肺がんなどの健康被害が起きる可能性がある物質である。健康被害が報告される以前は多くの場所で利用されていたが、1980年に製造を中止している。
設備工事関連では、配管やダクトの保温材やパッキンに使用されている可能性があるため、改修工事では石綿が含有の可能性について調査が必要になる。
石綿の含有が認められた場合、石綿が使用された保温材等の解体作業は、専門業者に依頼する必要がある。専門業者は石綿障害予防規則により、石綿作業の作業主任者を選任し、特別教育を受けた作業員に作業させる。さらに石綿の作業記録の保存と、作業員に定期的な特殊健康診断の受診させた記録の保存が必要になる。
ポリスチレンフォーム(EPS)
ポリスチレンフォーム |
ポリスチレンフォームは発泡プラスチック系の保温材の一種。繊維系の保温材よりは高価であるが、発砲プラスチック系の中では最も安価である。ポリスチレンフォームは、いわゆる発泡スチロールであり、発泡スチロールを配管に合わせて形成して保温材としている。
発泡プラスチック系のため、難燃性であるが熱に弱い、よって防火区画に使用できないのはもちろんのこと、最高使用温度は80℃程度なので高温の配管にも使用できない。繊維系と異なり水を吸わないため、湿気に強い、よって冷温水配管などの結露の危険性が高い配管においてはグラスウールやロックウールではなくポリスチレンフォームが利用される。
ポリエチレンフォーム
ポリエチレンフォーム |
ポリエチレンフォームは、発砲プラスチック系の保温材の一種。独立気泡の発泡体であり目の細かいスポンジのような材質の保温材である。主に縦方向の合わせ目に貼合用の両面粘着テープを取付けたワンタッチパイプカバーなどの簡易保温材(東レ株式会社や古河電気工業株式会社)として利用されている。また、チューブ系の配管である架橋ポリエチレン管やポリブテン管、空調用の冷媒管などの保温材としても用いられている。
発泡プラスチック系のため、難燃性であるが熱に弱い。防火区画に使用できないのはもちろんのこと、最高使用温度は80℃程度なので高温の配管にも使用できない。繊維系と異なり水を吸わないため、湿気に強い。
硬質ウレタンフォーム
硬質ウレタンフォーム |
硬質ウレタンフォームは、発泡プラスチック系の保温材の一種。前述のどの保温材よりも硬く、機械的強度が高い。硬質ウレタンフォームは主に、ウレタンバンドとして配管支持材に使われている。ウレタンバンドは、冷温水配管などの結露の危険性が高い配管において、支持金物からの結露水が伝わることを防ぐために利用されている。その他、加工の容易さから、ウレタンボードとしてUボルトのレベル調整に利用されている。
ウレタンバンド |
発泡プラスチック系のため、難燃性であるが熱に弱い。防火区画に使用できないのはもちろんのこと、最高使用温度は80℃程度なので高温の配管にも使用できない。繊維系と異なり水を吸わないため、湿気に強い。
また、配管の保温材にとって重要な特性では無いが、硬質ウレタンフォームには接着剤を使わなくても金属や合板やコンクリートなどの対象物の表面に直接発泡することにより接着することが出来る自己接着性があるため、建築物の断熱としてウレタン吹付が多く利用されている。
アーマーフレックスやエアロフレックスなど
アーマーフレックス |
合成ゴム系の独立気泡断熱材であるアーマーフレックス(ウチヤマコーポレーション株式会社)やエアロフレックス(日商エアロ株式会社)は、発砲プラスチック系と同様に湿気に強く、さらに発砲プラスチック系より難燃性で高温や低温にも強い。
メーカーごとに使用している合成ゴムに違いがあるため強度や価格などが異なるが、おおよそ耐候性や耐薬品性が高くポリスチレンフォームのハイグレード品のような位置づけになる。
配管に巻くものには保温用途の他、遮音や制振などを主目的としたものもある。遮音や制振のためのシートは、配管に直接巻いたり保温の上から巻いたりする。代表的なものにサンダムシート(ゼオン化成株式会社)やソフトカーム(東邦亜鉛株式会社)などがある。
保温の取付や仕上
保温材を配管やダクトに取り付ける際に使用される補助材や仕上材(外装材)などの保温の副材を以下に記載する。保温材と同様に公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)に材料の規格が記されている。
アルミガラスクロス(ALGC)
アルミガラスクロス(ALGC)は、アルミ箔(AL)にガラスクロス(GC)を貼ることで補強した製品をいう。繊維系の保温材の外材として使用することで保温材の飛散を防止するだけでなく、防湿層としての役割も果たしている。公共建築工事標準仕様書(機械設備工事編)に指定された材料である。
ALGCテープ |
アルミクラフト(ALK)
アルミクラフト(ALK)は、クラフト紙(K)に薄くアルミ箔(AL)を貼った製品をいう。繊維系の保温材の外材として使用することで保温材の飛散を防止するだけでなく、防湿層としての役割も果たしている。
ALKはALGCに比べて安価であるが破れやすい。イメージとしてガムテープで例えると、ALKは紙のガムテープ、ALGCは布のガムテープのような丈夫さの差がある。
ALKテープ |
原紙
原紙は、ロックウールやグラスウールなどの繊維系の保温筒に利用する場合に形を整えるために利用する厚紙をいう。原紙の上からALGCやALKなどを貼る。通常の原紙のほかに難燃性の原紙(難燃原紙)もある。
原紙 |
ポリエチレンフィルム
ポリエチレンフィルムは、ポリエチレン樹脂をフィルム状に成形したもので、水蒸気も通さないので防湿層として利用される。冷温水配管などの結露の危険性が高い配管に巻くほか、流体の結露の危険性に関わらず浴室や厨房等の多湿箇所や暗渠に施工する場合に巻く。
なお、ポリエチレンフィルムは強度の高い材料ではないので、直接に鉄線や粘着テープで固定せず、外装にALGCやALKを巻くなどで保護するのが一般的である。
ポリエチレンフィルム |
鉄線
鉄線は、主にグラスウールやロックウールなどの繊維系の保温材を配管に固定するために巻き付けて利用する副材。保温材にぐるぐる巻き付けることで固定するほか、鉄線の代わりに鉄線を編んだ亀甲金網を保温材に巻き付ける場合が多い。また、機械室などの人目に触れない屋内露出配管などでは亀甲金網仕上げとする場合が多く、この場合は塩ビ亀甲金網(カラー亀甲金網)が利用されている。
亀甲金網 |
塩ビ亀甲金網 |
粘着テープ
粘着テープは、主にポリスチレンフォームなどの発砲プラスチック系の保温材を配管に固定するために利用する副材。粘着テープがあらかじめ付けられた仕上材も多く、前述のワンタッチパイプカバー、ALK仕上やALGC仕上※の保温筒に粘着テープを付けたものなどある。
(※ALK仕上の場合はALK粘着テープがALGC仕上の場合はAKGC粘着テープが用いられる。)
鋲
鋲は、矩形ダクトに設置し保温材をダクトからずり落ちないようにするために利用する副材。保温材の種類や厚みにより異なる鋲を選ぶ必要がある。鋲によりダクトに保温材を固定した上で鉄線や粘着テープなどを利用する。
ダクト鋲 |
合成樹脂カバー
合成樹脂カバーは、合成樹脂を使用した難燃性の外装材。主に屋内露出配管や屋外配管の仕上材として使用されている。代表的なものにファインカバー(株式会社タイルメント)や被覆銅管用のスリムダクト(因幡電機産業株式会社)などがある。
合成樹脂カバー |
ラッキング
ラッキングは、薄い金属板を巻く保温の仕上のことである。その他の保温材や副材の施工と異なり板金工事の技術が必要なため、通常の保温工では無く板金工(ラッキング技術を持った作業員)が作業する。対候性が高く、主に屋外配管の仕上材として使用されている。
使用される金属板は、屋内露出用には亜鉛鉄板など、屋外用にはステンレス鋼板や溶融アルミニウム亜鉛鉄板(ガルバリウム鋼板)などが使われている。亜鉛鉄板のラッキング材には金属色(艶有/艶消)のほか、ニュークリームやアイボリーといったカラー鉄板がある。
ラッキング |