補給水の水質や水量の算定
補給水とは、冷温水配管の使用前に水を張るための給水管であり、減ってしまった循環水を自動的に供給するための配管でもある。冷温水配管は循環配管であるので、基本的には水栓などの吐出先は無く、大きな給水量が常時必要になるようなことはない。しかし、循環水の一部は蒸発などにより減ってしまうので、それらを考慮して必要な補給水量を算定する。
補給水の供給方法
循環水がどこかで外気と触れ合う回路を開放回路、反対に外気と触れ合わない回路を密閉回路という。
特に開放回路は、循環水の減少量が大きく水質の劣化も激しいため、補給水は必ず自動供給とする必要がある。密閉回路は、補給水の必要量が少ないため自動供給とせず、メンテナンス時や供給時のみ逆流防止措置を施した給水管を接続とする場合もある。(補給水量は僅かであるが、補給水が全く不要であるというわけではない。)
補給水を自動補給とする場合は、冷却水配管が開放回路か密閉回路で異なる方式となる。開放回路の補給水は、ボールタップなどの吐水口空間を確保した自動給水装置を設けた水槽や冷却塔から供給する。密閉回路の補給水は、外気と直接触れずに吐水口空間を確保することができないため、加圧シスターンなどの自動供給装置を別途設置する必要がある。
補給水量の算定
循環回路である冷温水回路は必要な補給水は僅かである。ただし、冷却塔においては水の蒸発するときの潜熱を利用して冷却するため、補給水量は比較的大きくなる。よって補給水量を計算して、衛生器具などと同様に給水の必要量に加える必要がある。なお、開放式冷却塔の補給水は循環水に利用されるが、密閉式冷却塔の補給水は冷却塔のための散布水であり、循環水の補給を行うわけではないので注意が必要。
補給水量は、水の蒸発量、キャリーオーバー量、ブローダウン量を合計することで求められる。必要補給水量は、実際にはその合計よりやや余裕を持たせた循環水量の2~3%程度とする必要がある。
また、補給水配管から冷温水配管の水張りを行う場合は、水張りがある程度の時間(2時間~半日程度)があれば完了するように補給水量を考える必要がある。
水の蒸発量
水の蒸発量は、以下の式で求められる。
蒸発量[kg/h]=冷却熱量[kJ/h]/蒸発潜熱[kJ/kg]=循環水量[kg/h]×出入口温度差[K]×比熱[kJ/kgK]/蒸発潜熱[kJ/kg]
よって、水の蒸発量の式は
蒸発潜熱=2500[kJ/kg]、比熱=4.1868[kJ/kgK]より
蒸発量[L/min]≒1.675×10-3×循環水量[L/min]×出入口温度差[K]
冷温水の出入口温度差が5℃の場合、水の蒸発量は循環水量の0.85%程度になる。
キャリーオーバー量
キャリーオーバーとは、微小水滴が送風機の通風によって空気に持ち上げられて冷却塔から放出されている現象のことをいい、蒸発量と異なりキャリーオーバ量は僅かである。
キャリーオーバー量は循環水量の0.3%程度を見込む必要がある。
ブローダウン量
ブローダウンとは、循環水を入れ替えることをいう。冷温水は循環水であり、ずっと同じ水がグルグルと回っているので、徐々に水の腐食や藻や細菌の発生などが起きて水質が劣化していく。さらに循環水が蒸発等により濃縮されていってしまうで、ブローダウンは定期的に行う必要がある。なお、ブローダウン用に排水経路の確保も必要になる。
ブローダウン量は管理目標となる濃縮倍率に応じて定められる。濃縮倍率は通常N=3程度であるが、薬剤注入などにより濃縮倍率を高めることでブローダウン量を減らすこともできる。濃縮倍率とブローダウン量の関係は以下の式による。
濃縮倍率=循環水の不純物濃度/補給水の不純物濃度
濃縮倍率=補給水量/補給水量から蒸発量を除いた水量
よって式変形して
濃縮倍率=(蒸発量+キャリーオーバー量+ブローダウン量)/(キャリーオーバー量+ブローダウン量)
ブローダウン量={蒸発量/(濃縮倍率-1)}-キャリーオーバー量
ブローダウン量は循環水量の0.3~0.4%程度を見込む必要がある。
補給水の水質
補給水の供給は、上水(水道水)を使用する。ただし、直接接続とするとクロスコネクションの恐れがあるので、タンクやシスターン、バキュームブレーカー等を利用して上水と吐水口空間を取り、補給水配管とする(雑用系上水配管)。
以前は補給水に雑用水(再生水や雨水や井水等)を利用することも多かった。しかし、建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築物衛生法)が改正され現在は雑用水を使用することはできない。
吐水口空間についてはドレンの接続についての記事に記載している。
上水には塩素やミネラル成分などの不純物が溶けており、蒸発により循環水の水成分だけが減るのでこれらの不純物が濃縮していく。これらにより循環水の水質が劣化していくため、定期的な薬液注入やブローダウンなどの対策が必要になる。塩素濃度が高くなると、配管の腐食や循環水のPH値が水質汚濁防止法による排水規制への抵触などの問題が起きる。また、ミネラル成分が多くなると飽和状態となりスケール化する。
冷凍空調機器用水質ガイドライン
項目 | 冷却水系 | 冷水系 | 温水系 | 傾向 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
循環式 | 一過式 | 低位中温水系 | 高位中温水系 | |||||||||
循環水 | 補給水 | 一過水 | 循環水 (20℃以下) |
補給水 | 循環水 (20~60℃) |
補給水 | 循環水 (60~90℃) |
補給水 | 腐食 | スケール生成 | ||
基準値項目 | pH(25℃) | 6.5~8.2 | 6.0~8.0 | 6.8~8.0 | 6.8~8.0 | 6.8~8.0 | 7.0~8.0 | 7.0~8.0 | 7.0~8.0 | 7.0~8.0 | ○ | ○ |
電気伝導率(mS/m)(25℃) | 80以下 | 30以下 | 40以下 | 40以下 | 30以下 | 30以下 | 30以下 | 30以下 | 30以下 | ○ | ○ | |
塩化物イオン(mgCl–/L) | 200以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 30以下 | 30以下 | ○ | ||
硫酸イオン(mgSO42-/L) | 200以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 30以下 | 30以下 | ○ | ||
酸消費量(pH4.8)(mgCaCO3/L) | 100以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | ○ | ||
全硬度(mgCaCO3/L) | 200以下 | 70以下 | 70以下 | 70以下 | 70以下 | 70以下 | 70以下 | 70以下 | 70以下 | ○ | ||
カルシウム硬度(mgCaCO3/L) | 150以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | 50以下 | ○ | ||
イオン状シリカ(mgSiO2/L) | 50以下 | 30以下 | 30以下 | 30以下 | 30以下 | 30以下 | 30以下 | 30以下 | 30以下 | ○ | ||
参考項目 | 鉄(mgFe/L) | 1.0以下 | 0.3以下 | 1.0以下 | 1.0以下 | 0.3以下 | 1.0以下 | 0.3以下 | 1.0以下 | 0.3以下 | ○ | ○ |
銅(mgCu/L) | 0.3以下 | 0.1以下 | 1.0以下 | 1.0以下 | 0.1以下 | 1.0以下 | 0.1以下 | 1.0以下 | 0.1以下 | ○ | ||
硫化物イオン(mgS2-/l) | 検出されないこと | 検出されないこと | 検出されないこと | 検出されないこと | 検出されないこと | 検出されないこと | 検出されないこと | 検出されないこと | 検出されないこと | ○ | ||
アンモニウムイオン(mgNH4–/L) | 1.0以下 | 0.1以下 | 1.0以下 | 1.0以下 | 0.1以下 | 0.3以下 | 0.1以下 | 0.1以下 | 0.1以下 | ○ | ||
残留塩素(mgCl/L) | 0.3以下 | 0.3以下 | 0.3以下 | 0.3以下 | 0.3以下 | 0.25以下 | 0.3以下 | 0.1以下 | 0.3以下 | ○ | ||
遊離炭酸(mgCO2/L) | 4.0以下 | 4.0以下 | 4.0以下 | 4.0以下 | 4.0以下 | 0.4以下 | 4.0以下 | 0.4以下 | 4.0以下 | ○ | ||
安定度指数 | 6.0~7.0 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ○ | ○ |
1. 項目の名称とその用語の定義及び単位はJIS K 0101による。
2. 欄内の○印は腐蝕又はスケール生成傾向に関する因子であることを示す。
3. 温度が高い場合(40℃以上)には一般的に腐食性が著しく、特に鉄鋼材料が何の保護被膜もなしに水と直接触れるようになって いる時は防食薬剤の添加、脱気処理など有効な防食対策を施すことが望ましい。
4. 密閉冷却塔を使用する冷却水系において、閉回路循環水及びその補給水は温水系の、散布水及びその補給水は循環式冷却水系の、それぞれの水質基準による。
5. 供給・補給される源水は、水道水(上水)、工業用水及び地下水とし、純水、中水、軟水処理水などは除く。
6. 上記15項目は腐食及びスケール障害の代表的な因子を示したものである。
社団法人日本冷凍空調工業会:JRA-GL02:1994
循環水量1,000[L/min]、入口水温37[℃]、出口水温32[℃]の開放式冷却塔の補給水量を求める。塩化物イオン濃度60[mg/L]程度に収まるように、塩化物イオン濃度20[mg/L]の補給水によりブローダウンを行うものとする。キャリーオーバー量は循環水量の0.3%程度とする。
蒸発量は、蒸発量[L/min]≒1.675×10-3×循環水量[L/min]×出入口温度差[K]より
1.675×10-3×1,000×(37-32)≒8.4[L/min]
キャリーオーバー量は、問題文より循環水量の0.3%程度となるので
1,000×0.3/100=3.0[L/min]
濃縮倍率は、濃縮倍率=循環水の不純物濃度/補給水の不純物濃度より
濃縮倍率N=60/20=3となるようにした。
ブローダウン量は、ブローダウン量={蒸発量/(濃縮倍率-1)}-キャリーオーバー量より
ブローダウン量={8.4/(3-1)}-3=1.2[L/min]
よって、補給水量=蒸発量+キャリーオーバー量+ブローダウン量=8.4+3.0+1.2=12.6[L/min]
なお、12.6[L/min]循環水量の1.3%程度であるので、余裕を持たせる場合は循環水量の2%として、補給水量を1,000×2%=20[L/min]程度とする。