空調ドレンの間接排水とトラップ(排水管との接続など)
空調ドレン配管は、昭和50年建設省告示第1597号「建築物に設ける飲料水の配管設備及び排水のための配管設備を安全上及び衛生上支障のない構造とするための基準」により、雑排水管や雨水配管などに直接連結してはならないとされているため、排水口空間を取る間接排水として接続することになる。さらに通常の排水管と同様に、各機器下にはトラップを取り付ける必要がある。なお、ドレンを専用の系統として各空調機のドレン水を配管で連結し回収することで、ドレン管末にドレン全体用のトラップをつけて、まとめて間接排水として排水等に接続することもできる。以下に間接排水の規定と空調ドレンのトラップ種類について記載する。
そもそもドレンとは、空調機内で空気の温度が下がることで空気中の水分が凝縮することで発生する排水である。それを空調機内のドレンパン(排水皿)に集め、配管を通じて外部排水桝などに排出している。この配管をドレン配管といい、蒸気ドレンと区別するために空調ドレン配管と呼ぶことが多い。ドレン配管は排水管の一種であるので、ポンプアップする場合を除き、雑排水や汚水と同様に順勾配(自然勾配)で排水する。ドレンの排出先は側溝や排水桝などであり、バックヤードなどで管理が容易な場合は清掃用流し(SK)や流し台など※に排出することもできる。
※先述の基準の解説には水受け容器の設置場所や構造についての記載があるので排水先の形状などを確認する必要がある。
参考予定>>排水桝の配置や構造
トラップの種類
通常の排水トラップにはパイプトラップ、ベルトラップ(椀トラップ)、ドラムトラップなどがあり、いずれも水が溜まる空間をワザと作ること(封水)によって水で配管を塞いで、臭いや虫などが配管を通して侵入することを防ぐトラップとしての役割を持たせている。
しかし、空調機は冬期はドレン水(凝縮水)が出ないため、封水が蒸発して無くなってしまう可能性がある。よって各メーカーが空調ドレン用に封水によらないトラップを製作している。この封水によらないトラップを乾式トラップ、通常の封水によるトラップを湿式トラップと呼ぶ。
以下に各種トラップの仕組みを示した。
湿式トラップ |
パイプトラップ SトラップPトラップUトラップ |
---|---|
ベルトラップ(椀トラップ) | |
ドラムトラップ | |
乾式トラップ (空調ドレントラップ) |
ダンパー式トラップ |
OKトラップ | |
自封式トラップ | |
フロートボール式トラップ | |
Aトラップ 正圧用負圧用 |
湿式トラップ(排水用トラップ)
湿式トラップは封水によって配管を塞ぐトラップで、主に汚水や雑排水などの衛生排水に利用される。湿式トラップには、配管によって作るパイプトラップ、排水口をトラップ形状にするベルトラップ、配管経路に円筒を置くドラムトラップがある。
パイプトラップ
パイプトラップは、配管に水が溜まる形状にすることによって封水部分を作るトラップである。配管の形状によりSトラップ、Pトラップ、Uトラップがある。パイプトラップはゴミが詰まった場合などの清掃は難しいのが難点であるが、自己洗浄作用(排水の勢いによってトラップ内部を洗浄する作用)があるため多く利用されている。各種トラップの詳細は以下の通り。
- Sトラップ…配管をS型にベンドし作成したトラップ。Pトラップと比べて自己サイホン作用※による封水切れを起こしやすい。主に、床排水洗面器のトラップなどに利用される。なお、便器内部のトラップもSトラップのような形状をしている。
- Pトラップ…配管をP型にベンドし作成したトラップ。封水切れを起こしにくいためパイプトラップの中で最も理想的な形状とされている。主に、壁排水洗面器のトラップなどに利用される。
- Uトラップ…配管をU型にベンドし作成したトラップ。配管の流れを阻害してしまう形状であることと、排水の勢いによって封水切れを起こしやすい形状であることから衛生器具廻りではあまり使用されない。なお、トラップ桝もUトラップのような形状をしている。
※自己サイホン作用…器具自身の急な排水によって配管内が満水になり配管が塞がれたまま排水されることで、排水する方向に空気が引っ張られる現象をいう。自己サイホン作用によって、トラップ前の空気が引っ張られてトラップ中の封水を押し出してしまう。
ベルトラップ(椀トラップ)
ベルトラップは、広めの排水口にベル(椀)を取り付けることで封水部分を作るトラップである。封水部分がパイプトラップより大きいので封水切れを起こしにくく、沈殿物をトラップ上に停滞させやすいが、椀の取付によるトラップ部分が狭いため排水が詰まりやすい。
排水口に取り付けられるためメンテナンスしやすく小型であることから、お風呂や湿式トイレ※の排水口や流し台など様々なものに利用されている。
※湿式トイレ…床や便器の清掃時に水で洗い流すことが出来るように防水層に覆われたトイレのことをいう。以前は全体を水洗い出来る湿式トイレが主流であったが、水洗いにおいて水濡れ状態になることにより菌が繁殖しやすく不衛生であるとして現在は数を減らしてきている。湿式トイレの対義語として防水層に覆われていないトイレを乾式トイレという。
ドラムトラップ
ドラムトラップは、ドラム(円筒)によって封水部分を作るトラップである。封水部分が配管より大きな円筒になっているので封水切れを起こしにくく、沈殿物をトラップ上に停滞させやすいため、実験用流しや洗髪器、ユニットバスなどの定期的な清掃によりゴミを取り除きたい場所に利用されている。
乾式トラップ(空調用トラップ)
乾式トラップは封水以外の方法で配管を塞ぐトラップで、封水切れが発生しやすい空調ドレンに利用される。通常、乾式トラップは汚水や雑排水などの衛生排水のトラップとしての利用ができないので注意が必要。(反対に、湿式トラップを空調ドレン用トラップに使用することは出来る。以前は乾式トラップの性能があまり良くなかったこともあり、空調ドレンにも多くの湿式トラップが利用されていた。)
乾式トラップは各メーカー様々なシステムのものを開発しているので、そのうち代表的なものを以下に記載している。
ダンパー式トラップ
ダンパー式トラップは、配管内に開閉する板を設けて封水の代わりに板で配管を閉止することでトラップとして機能している。ドレン水が溜まると排水の自重により板が開き排水される。竪管に取り付ける中間取付タイプや配管のドレン排出口に取り付ける管端取付タイプなどがあるが、自重によって排水するため横引管取付タイプは存在しない。各メーカーからダンパー式トラップが出ている。代表的なものにウォーターベスト(東栄工業)やおとめちゃん(因幡電工)などがある。
OKトラップ
OKトラップは(株)アウスの商品名をいう。シリコンゴム製のキャップで配管を閉止することでトラップとして機能している。シリコンゴムに十字に切り込みが入っていて、ドレン水が溜まると排水の自重により切り込みから排水される。ドレン排出口に取り付ける管端取付タイプのトラップになる。
自封式トラップ
自封式トラップは、装置内のゴム弁の弾性により配管を閉止することでトラップとして機能している。ドレン水が溜まると排水の自重によりゴム弁の閉止が解かれ排水される。竪管に取り付ける中間取付タイプのトラップになる。なお、ダンパー式トラップのことをエアカットバルブと表現している場合もあるので注意する。代表的なものにエアカットバルブ(東光器材)やWFL50(伊藤鉄工)などがある。
フロートボール式トラップ
フロートボール式トラップは、装置内のフロートボール(浮き子)により配管内が閉止することでトラップとして機能している。ドレン水が溜まるとフロートボールが浮き排水される。横引管取付タイプのトラップになる。代表的なものにCトラップ(コンドーFRP工業)やBT3(伊藤鉄工)などがある。
Aトラップ
AトラップはコンドーFRP工業(株)の商品名をいう。Aトラップ以外の空調ドレントラップは、空調機内圧が低い&負圧で利用することを想定して作られたものであるが、Aトラップは、空調機内圧が高圧(500Pa以上)でも利用可&負圧用と正圧用があることが大きな特徴である。
負圧用は、大型のフロートボール式トラップで、装置内のフロートボール(浮き子)により配管内が閉止することでトラップとして機能している。ドレン水が溜まるとフロートボールが浮き排水される。
正圧用は、装置内が封水で満たされた湿式トラップで、加圧しろを考慮しパイプが挿入されたドラムトラップのような形状をしている。通常の排水トラップと同様に冬期は封水切れを発生する。
両者とも大型の床置きタイプのトラップになる。
通常、空調ドレン配管には大きい圧力がかからないため正圧か負圧かを確認する必要はない。ただし、エアハンドリングユニットなどの大型空調機の空調ドレンは、空調機内のファン(送風機)の圧力に影響を受けて引っ張られたり押し込まれたりするので空調ドレン配管にも大きい圧力がかかる。これにより、ドレン配管全体に影響を与えないようにトラップを単独で配置する必要がある。
ただし、空調ドレントラップはAトラップ以外を除いて負圧配管で利用することが想定されたものであるため、空調機に単独で設置するドレントラップは空調機内が負圧であることを確認する必要がある。
(湿式トラップにおいては、ドレンにかかる圧力により封水切れを起こさないように十分な封水を持ったトラップであれば、正圧か負圧かに関わらず利用することが出来る。)
空調機内のドレン発生部分(エアハンドリングユニットではコイルユニット)が、ファンの手前(吸込側)にある場合はドレンはファンによって引っ張られて負圧になり、ファンの先(吹出側)にある場合はドレンはファンによって押し込まれ正圧になる。一般的にはファンはドレン発生部分の先にあり負圧となることが多い。
参考予定>>給水配管における注意点(2重トラップや自己サイホン等)
2重トラップの防止
空調機に単独でドレントラップを設置した場合、各空調機のドレン水を配管で連結し回収する際につけるトラップとの間が2重トラップとなってしまう。2重トラップになると、配管内の空気が2つの封水により塞がれて排水の流れに悪影響を与えてしまう。
よって2重トラップを防止するために、以下の図のように単独でドレントラップを設置したドレン配管は間接排水として配管の縁を切って排水する必要がある。
ドレン接続イメージ図
吐水口空間と排水口空間
配管から水が逆流することで汚染が起きることを防止するため、吐水口空間を確保することが求められる場合がある。給水装置の吐水口端から衛生器具などのあふれ縁(越流面)までの垂直距離を吐水口空間いう。
例えば、栓をした洗面器にホースで水を溜めて洗顔をしているとして、洗顔後にそのホースの先端を洗面器の溜まった水の中に入れていたとする。その状態で断水など何らかの理由で給水配管内が負圧になってしまうと、その溜まった水が逆流し上水配管を汚染してしまう。このようになることを防止するため、吐水口空間を確保する。
吐水口空間の似た言葉に排水口空間があり、直接排水管に接続しては好ましくない機器の排水は排水口空間を設けて間接排水とすることとされている。
吐水口空間とは、上水系統がタンクの水などの逆流によって汚染されるのを防ぐために、給水を大気に開放して縁を切るための空間である。
排水口空間とは、ドレンなどが排水系統の逆流により汚染されるのを防ぐために、排水を大気に開放して縁を切るための空間である。
ただし、建築物環境衛生維持管理要領により、水抜管及びオーバーフロー管は間接排水とすることとされているので、吐水口空間の基準ではなく排水口空間の基準を参照する必要がある。
呼び径の区分 | 近接壁から吐水口の | 越流面から吐水口の |
---|---|---|
中心までの水平距離B | 中心までの垂直距離A | |
13mm以下 | 25mm以上 | 25mm以上 |
13mmを超え20mm以下 | 40mm以上 | 40mm以上 |
20mmを超え25mm以下 | 50mm以上 | 50mm以上 |
注1:浴槽に給水する場合は、越流面から吐水口の中心までの垂直距離は50mm未満であってはならない。
注2:プール等水面が特に波立ちやすい水槽並びに、事業活動に伴い洗剤又は薬品を使う水槽及び容器に給水する場合には、越流面から吐水口の中心までの垂直距離は200mm未満であってはならない。
注3:上記1及び2は、給水用具の内部の吐水口空間には適用しない。
区分 壁からの離れB | 越流面から吐水口の | ||
---|---|---|---|
最下端までの垂直距離A | |||
近接壁の影響がない場合 | 1.7d’+5mm以上 | ||
近接壁の影響がある場合 | 近接壁1面の場合 | 3以下 | 3.0d’以上 |
3dを超え5d以下 | 2.0d’+5mm以上 | ||
5dを超えるもの | 1.7d’+5mm以上 | ||
近接壁2面の場合 | 4d以下 | 3.5d’以上 | |
4dを超え6d以下 | 3.0d’以上 | ||
6dを超え7d以下 | 2.0d’+5mm以上 | ||
7dを超えるもの | 1.7d’+5mm以上 |
注1:d:吐水口の内径[mm]、d’:有効開口の内径[mm]
注2:吐水口の断面が長方形の場合は長辺をdとする。
注3:越流面より少しでも高い壁がある場合は近接壁とみなす。
注4:浴槽に給水する場合は、越流面から吐水口の最下端までの垂直距離は50mm未満であってはならない。
注5:プール等水面が特に波立ちやすい水槽並びに事業活動に伴い洗剤又は薬品を使う水槽及び容器に給水する場合には、越流面から吐水口の最下端までの垂直距離は200mm未満であってはならない。
注6:上記4及び5は、給水用具の内部の吐水口空間には適用しない。
水道維持管理指針 2006(日本水道協会)
間接排水管の管径[mm] | 排水口空間[mm] |
---|---|
25以下 | 最小50 |
30~50 | 最小100 |
65以上 | 最小150 |
注:各種の飲料用貯水等の間接排水管の排水口空間は、上表にかかわらず最小150mmとする
SHASE-S 206-09
参考予定>>バキュームブレーカ
なお、設備手帳には吐水口空間と排水口空間ともにSHASE基準(SHASE-S 206-09)が掲載されているが、吐水口空間は水道法施行規則により定められた値があるため、それを記載している。